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彼はまっすぐに私の元に歩いてきた。
「お父さん、来てくれたのね」
「すまなかった、アヤ。実はお父さん、ひと月ほど入院していたんだ。昨夜家に帰ってきて、今朝、招待状に気づいた」
「いいの。来てくれただけでうれしいわ」
「いや、だめだ」
「え?」
「この結婚を許すわけにはいかない」
「そんな。どうして?」
「他の男なら、どんな奴だろうとアヤが決めた相手なら反対はしない。だが……」
父は洋介を睨みつつ指差す。
「こいつとだけは結婚しちゃだめなんだ」
場が騒然となる。神父が片言の日本語でとりなそうとするけど、父はそれを無視して話を続ける。
「こいつは、お前の母さんが私と結婚する直前まで彼女と付き合っていたんだ」
思わず洋介を見る。彼は気まずそうに視線をそらせた。
「アヤ」
呼ばれて再び父を見る。
「お前が中学生のころ、私と母さんは離婚しただろ?あれは、私がDNA鑑定をしたからなんだ。お前と私のDNAを。そうしたら、血のつながりがないことが分った。母さんを問い詰めたら白状したよ。お前の父親は、元教え子の、この井上洋介だってな」
「は?」と声を上げたのは洋介だ。彼はそのことを知らなかったのだろう。呆然とした表情で父のことを見つめている。
私だって頭の中は真っ白だ。混乱しつつも父の言葉を反芻するうち、ことの重大さに気づいた。
つまり、私の本当の父親は井上洋介であり、その父と、私は結婚しようとしているのだ。
不意に子供のころの、父とのやり取りが甦った。
『アヤ、お前は大きくなったら、何になりたい?』
『パパのお嫁さんになる!』
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