登龍門

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 不満げに口をとがらせるコータに、カエルは呆れたように言いました。 「たしかにやってみなくちゃわからないけどさ……それにしたって、どうしてあんな滝をのぼろうとするんだい?」 「その滝をのぼり切ると、龍になれるんだ。龍になって、ボクは空を飛ぶんだ」  夢見るような顔で語るコータに、プーと頬をふくらませたカエルが言いました。 「おかしなことを言うね。オタマジャクシがカエルになっても、コイが龍になんかなるものかね」 「なれるんだよ。ボクたちコイは、龍の子供のころの姿なんだから」 「へぇー。そりゃ初耳だ」  まるで信用していないかのように、おどけた調子でカエルがそう言うと、その隣でオタマジャクシが「初耳だ、初耳だ」と言ってはやし立てました。  その姿にコータはムッとしながら、 「とにかく、滝をのぼってボクは龍になるんだ」  と言い残し、再び泳ぎ始めました。  しばらく進むと、今度はナマズと出会いました。 「おやコータ、どこへ行くんだい?」  そう問いかけるナマズに、泳ぎを止めたコータは答えます。 「登龍門だよ」 「登龍門って、あの滝の?」 「そうだよ」とコータが答えると、ナマズは「なつかしいなぁ」と言って上流のほうへと目を向けました。 「オイラがまだ若いころ、この河の流れ出る場所を見てやろうと考えて、旅に出たことがあるんだ」 「じゃあ、あの滝をのぼったの?」  コータの問いかけに、ナマズは「いやいや」と大きく頭を振りました。 「とてもじゃないがむりだったよ。その滝を見た瞬間、あきらめたんだ。それくらい高いんだよ、あの滝は」 「そんなに高いの?」と不安げなコータに「高いとも」と答えたナマズは、相手の表情に気づいて首を傾げます。 「もしかして、君はあの滝をのぼるつもりなのかい?」  コータが「うん」と肯くと、ナマズは目をぱちくりさせながら言いました 「そりゃ無茶だよ。あんな滝のぼれっこないさ」 「それでものぼりたいんだ」 「うーん」とナマズはむずかしい顔でうなってから、 「そんなに言うなら止めはしないけどさ。でも何があるんだい?君がそれほどのぼりたいと言う滝の上には」 「何もないよ。ただあの滝をのぼり切ると、ボクたちコイは龍になれるんだ。龍になったら、空を飛べるようになるんだよ」  力説するコータに、ナマズは冷ややかな眼差しを向けました。 「え?君が龍になるって?そんなこと、あるわけないよ」 「それがあるんだよ。だってほら、ボクにはヒゲがあるし、ウロコもあるだろう?これが龍になれる証拠さ」 「何をバカなこと言ってるのさ。ウロコならどんな魚にだってあるし、オイラにはこの通り、ヒゲだってある」
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