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ナマズは自慢げにピクピクとヒゲを動かすと、「だからそんなの証拠にならないよ」と言ってケタケタと笑いました。
その笑顔にコータはムッとしながら、
「でも両方あるのはボクだけだ。見てなよ。きっと龍になって戻ってくるから」
と言い残し、先を急ぐのでした。
さらに河をさかのぼっていくと、カニの姿が見えてきました。
カニは赤いハサミをふりながら、コータに声をかけました。
「おーい、そんなに急いでどこへ行くんだい?」
泳ぎを止めたコータは、龍になるために登龍門へ行くことをカニに話しました。きっとこれまでと同じように、反対されるに違いない、龍になれることを信用してもらえないに違いない、と思いながら。
ところがカニの口からは、予想外の言葉が飛び出します。
「あの滝なら、私ものぼったことがあるぞ」
「え?」と目を丸めるコータに向けて、カニは自慢げに胸を張りました。
「簡単なことさ。見ての通り、私には八本の足と二本のハサミがあるのだからね。岩をつかんでのぼればいいだけだ」
それを聞いてコータは自分の体を見下ろします。そこには足もハサミもありません。
そんな姿を目にしたカニは、気まずそうに「えっと……」と口ごもってから、
「君には立派な尾ひれがあるから、大丈夫だろう……たぶん……」
と言って慌てて話題を変えました。
「そんなことよりも、すごいじゃないか。君は龍になれるんだろう?」
「そうだよ。龍になったら、空を飛べるようになるんだ」
うれしそうなコータにつられるように、カニも笑顔を浮かべます。
「そりゃすごい。でも、知らなかったなぁ。コイが龍になれるだなんて。そんな話、君はいったいどこで知ったんだね?」
コータが「サルから聞いたんだよ」と答えると、カニの顔から急に笑顔が消えました。
「今、サルって言ったかね?」
「言ったけど……」
おずおずと言ったコータの言葉をかき消すほどの大声で、「ダメだダメだダメだ」とカニが言いました。
「いいかね」とカニは指差すようにハサミをコータに向けました。
「私のご先祖様から代々伝わる教訓があるのだ」
「教訓?」と首をかしげるコータに「それはね……」とカニは前置きしてから、
「サルを信じるな」
まるでその言葉を口にするのもおぞましいと言いたげに、しかめっ面を見せました。
「信じるなって、どうしてさ?」
食ってかかるコータに、カニは渋い顔のまま説明を始めます。
「これは私の遠いご先祖様の身にふりかかった話だ。その昔、あるカニがオニギリをもっていたところ、サルがやってきて無理やりカキのタネと交換させられたんだ。それでもそのカニは、そのタネから見事カキの木を育て上げた。たわわに実ったカキの実を食べようと思った矢先、またサルがやってきて、その実を横取りされた挙句、カニはひどい目にあわされたんだ。つまり、そのカニはサルにだまされたのだ。だから君だって……」
カニはチラリとコータを見て、「だまされているんだよ、きっと」と呟くように言いました。
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