登龍門

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 あわれむようなその表情にコータはムッとしながら、 「確かに君の話の中のサルはだましたかもしれないけど、ボクが言うサルとはちがうんだ。だからボクは、あのサルの言葉を信用するよ」  と言い残し、ぷいとそっぽを向くようにして泳ぎ始めました。    やがて、ドドドドドーッと、水の落ちる大きな音が聞こえてきました。コータがプカリと水面から顔を出すと、目の前に大きな滝がありました。カエルやナマズが言ったとおり、それはとてつもない高さがありました。  その滝を前に、これこそ登龍門に違いない、とコータは思うと同時に、やっぱりのぼるのは止めようかな?という考えが頭をもたげました。それはあまりの高さに少しおじけづいたからでした。  それでも空を飛びたいという思いは諦めきれず、彼は勇気をふりしぼって滝をのぼりはじめます。  ゴウゴウと流れ落ちる水の勢いは想像以上のものでした。懸命に尾ひれを動かし、滝の途中までのぼるものの、水に叩かれて押し戻されたり、あともう少しで滝の上までとどきそうなところまで行くのに力尽きて落ちてしまったりと、コータは何度も失敗しては、挑戦をくり返します。  何度も挑戦を重ねるうちに、彼の頭の中をカエルやナマズの言葉が通り抜けていきました。  絶対無理……  あんな滝のぼれっこない……  やっぱり彼らの言う通りなのかな、と弱気になるたびに、コータは空を見上げます。そうすることで、空を飛びたいという気持ちを奮い立たせるのです。 どれくらいのスピードが必要なのか、どれくらいの角度で滝をのぼればいいのか、どれくらいの勢いがあれば落ちてくる水の力に負けないのか、コータは失敗のたびにそれらを学びました。  やがて太陽が西の空に傾いたころ、コータの体力は限界に近づいていました。これで最後にしよう。これで失敗したら諦めて帰ろう。そう思いながら、コータは全身全霊をこめて滝に向かいました。  そのとき、コータには滝が止まっているように見えました。  何度も滝をのぼるうち、その水の流れが彼の脳裏に焼きついていたのです。  驚くほどにするすると彼の体は滝をかけあがり、ついにその頂点に達しました。  やっと龍になれる……そう思って自分の体に目を向けるコータでしたが、彼の体にはなんの変化も現れません。 「おかしいな。龍にならないぞ……」  つぶやきながら、コータはさらに上流へと向かいはじめます。たった今のぼった滝が登龍門ではなく、もしかしたらまだこの先に本物の登龍門があるんじゃないだろうか、と考えたからです。  ところが、先を急ごうとするコータにむかって誰かが声をかけました。 「おや、こんなところにお客さんとはめずらしい」  泳ぎをとめたコータが声のする方をふり返ると、川の岸辺に年老いた一匹の大きなカメがおりました。もの知り顔のそのカメに、コータはちょうどいいとばかりに近寄ります。 「こんにちは。おたずねしますが、そこにある滝は登龍門でしょうか?」
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