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登龍門
昔々、あるところに大きな河が流れていました。その河には一匹のコイが住んでおり、名をコータといいました。
普段は水の中で生活をしているコータでしたが、あるときたまたま水面に顔を出した彼はあるものを見つけます。
それは大空を舞う一羽のトンビでした。
翼をピクリとも動かさず、気持ちよさそうに風に乗るその姿に、コータの目は釘付けになりました。
そこへ偶然、一匹のサルが通りかかります。川岸を歩いていたサルは、水面から顔を出した一匹のコイに気づき、声をかけました。
「おーい。そんなところで何をしているんだ?」
コータは川岸のほうに近寄ると、チラリと空のほうへと視線を向けてからこう答えます。
「ほら、あそこに一羽のトリが飛んでいるだろう?ボクもあのトリみたいに自由に空を飛びまわれたら、さぞかし気持ちがいいだろうと思ってさ」
そう言われてサルも空へと目を向けました。その先で、トンビはくるりと輪を描きます。
「たしかに気持ちいいだろうね……」
と言ってから、サルはコイに視線を戻しました。
「でも、君だって空を飛べるじゃないか」
そのセリフにコータは目を丸めて驚きました。
「え?ボクはコイだよ。コイが空を飛べるわけがないよ」
「ところが飛べるんだよ。登龍門へ行けば」
聞きなれない言葉に、コータは「とうりゅうもん?」と言って首を傾げました。
するとサルは、「知らないなら教えてやるよ」と自慢たらしく言ってから、説明を始めます。
「いいかい?この河のずっと上流には、登龍門って名前の滝があるんだ。コイがその滝を登りきることができたら、龍になれるんだ。そうしたら空だって自由自在に飛べるじゃないか」
「龍になれるの?」
そう言って目を輝かせるコータの体を、サルは指差しながら言いました。
「ほら、自分の体を見てみなよ。ウロコとヒゲがあるだろう?龍にもそれらはあるじゃないか。それこそが龍になれる証拠なのさ。つまり君たちコイは、龍の子供のころの姿ってことだな」
「じゃあ、その滝を登れば、本当にボクは空を飛べるようになるんだね?」
「もちろんさ」
サルは自信満々の笑顔を浮かべました。
コータはサルにお礼を言うと、喜び勇んで泳ぎ始めます。上流へ向けて。登龍門を目指して。
しばらく行くと、コータはカエルと出会いました。そのカエルは自分の子供であるオタマジャクシをつれています。
「ケロケロ?どこへ行くんだい?」
カエルの問いかけにコータは泳ぎを止めると、「登龍門さ」と答えました。
「登龍門?あんなところまでいったい何をしにいくつもりだい?」
「のぼるんだよ」と答えたコータに、カエルは「むりむり」と言って大げさに手を振ります。
「あの滝はとてつもなく高いんだ。それをのぼろうなんて、絶対にむりだよ」
「そんなの、やってみなくちゃわからないだろう」
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