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「普段は大人しい人なのに……あの人が旦那にそんな挑発を仕掛けるなんてね。だけど、そんな事、彼はちっとも気付かなかったみたいだけど」
「恋は盲目と言いますから。ご主人の絵を描いたのは、同じ画家ですよね?」
「ええ……そうだけど」
「その方は、随分と挑発的な人みたいですね。ご主人の絵に描かれたクロッカスの花は、『裏切らないで』という意味もあるんですよ」
僕の解釈に、彼女は声を立てて笑う。
「皮肉も入ってるってことね」
「そうかもしれません」
僕がそう言ったところで、「おい」と隣から声がした。
「おまえ、また絵と話してんのか。気味が悪いからやめた方がいいぞ」
あからさまな嫌悪を顔に浮かべて、上司が僕の隣に立っていた。
「この絵、外した方が良いかもしれませんよ」
「どうしてだ?」
「『夫婦の愛。中世のおしどり夫婦たち』という言葉に、似つかわしくない二人だからですよ」
僕が言うと上司は不服そうに「でもな、この貴族は――」と、唐突に蘊蓄を語り出す。
僕はそれを聞きながらも、本日二度目の講釈だとげんなりしていた。
きっとこの人の奥さんも、この女性と同じ気持ちなんだろうなぁと――
女性の絵を見つめながら、僕はそう思わずにはいられなかった。
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