語る人

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「隣にいる彼女は私の妻なんだ。綺麗だろ?」  僕にそう話しかけてきた男は昔、一国の王だったらしい。今でも眼光鋭くこちらを見つめる姿は、確かにその面影があった。  今度は男の隣に並んだ女性に目を向ける。  自慢するだけあって、美しい女性だった。  フリルの付いた美しいドレスに身を包み、気品の高さを滲ませるような豪奢な椅子に腰掛けている。手には白いダリアの花を持ち、恥じらうように伏せた目は、主人の方に向けられていた。 「そうですね。とても綺麗だと思いますよ」 「そうだろ。彼女は社交場で、私が一目惚れした女性なんだ」  僕が相づちを打つと、男はその険しい顔から想像もつかないような優しい声で言った。 「私は何度も、彼女にアプローチしてね。何とか苦心の末に、彼女と結婚するまでに至ったんだ」 「そうだったんですか」 「彼女との日々は幸せだった。子供も三人生まれた。立派な跡取りを産んでくれたんだ」 「それはおめでたい事ですね」 「ああ。私たちは幸せだったはずだ。可愛い子供達に、国民からの熱い支持。国家は兵も財も充分に潤っていた。ひとえに私の手腕によるものだろう。彼女もそんな私と結婚できたのだから、さぞかし幸せだっただろうね」  それから男は、久しぶりの話し相手だったのか、自分がいかに凄い男であるのかを語り続けていた。  僕は所々聞き流しながらも、男の近くにある花瓶に飾られていた、クロッカスが気になって仕方なかった。
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