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「ねぇ、お休みの日にずっと読書しているつもりなの?」
同室の彼女が後ろから私を抱え込むように本を覗き込む。
初対面の時からとても人懐っこい彼女は夏野美咲。
お祖母様がイギリスの方で、彼女の容姿は絵本から出てきたお姫様の様だった。
「美咲様、少し重たいわ」
私はやんわりと離れて頂く様に窘める。
「あらっ、ごめんなさい。琴音様ったら本にばかり夢中なのですもの。妬けてしまうわ」
私は小さな溜息を漏らし手にしていたお気に入りの本をパタリと閉じた。
彼女がこうして私に触れる時は何かしらの願い事がある時と決まっている。
「どこか、行きたい所でもお有りなの?」
身体を少しよじり、彼女の顔を見ると嬉しそうに微笑んでいた。
「琴音様は私の事をよくご存じね!そうなの。実はね、あぁ、少し待っていて下さるかしら?」
そう言うと彼女はウォーキングクローゼットに小走りで向かった。
「そんなに急ぐと転びますわよ」
私は彼女の背中に声を掛けてからハッとする。
幼少期に私の背中に投げかけられた「こうすべき」の言葉だ。あれほど、窮屈に感じていた言葉を私は彼女に向けたのだ。
胸に広がる黒々とした違和感を覚えながら私は彼女の姿を目で追った。
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