08.英語の短文を暗誦するみたいな

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08.英語の短文を暗誦するみたいな

 そんな翔大の言葉を聞いて、帆香の胸に後悔が押し寄せる。 「ううん。私の方こそごめん。せっかく翔大のお母さんが花を持たせたのに、花屋に行けなくなったって怒っちゃって」  帆香は腹を立てた自分がつくづく小さい人間に思える。  翔大は帆香の言葉に、そんなことはないと首を振る。それから、丸暗記した英語の短文を暗誦するみたいな感じで口をひらく。 「約束を結ぶことは約束を破ることよりも大きな罪であり、負い目を得ることである」 「?」  突然の言葉に帆香が黙り込んでいると、翔大はまた言葉を続けた。 「それに続く言葉がある。だからこそ、結んだ約束に縛られるのもまた罪であるってね」  それからさらに翔大は言葉を続ける。 「別に帆香を攻めてるわけじゃない。約束はお互いが平等に結んで、お互いが平等にその責任を負うってことだよ。でもね、その約束に縛られてもいけないってことでもある。帆香みたいにね」  そんな言葉を聞いた瞬間、帆香の胸を何かが貫いた。たしかにそうだ。約束は互いに平等なのに、私だけが約束に縛られていた。  帆香は少し照れくさい。自分の気持ちがみんな見透かされていたから。  そして帆香は改めてひとつのことに気づく。私はやっぱり翔大のことが好き。でも、今の私じゃまだまだ翔大に追いつけない。  私は翔大にとっていちばん大切な人になりたいのに、翔大の方が私よりもずっと大人だから。  約束ひとつ行き違いが生まれただけなのに、こんなに心が大きく波打って、怒ったり悲しんだりしている私は、まだ翔大と同じ場所には立てないよ……。  このままじゃ、翔大のいちばん大切な人にはなれない。そう思うと悲しく思えた。自分の幼さが恥ずかしくて。
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