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あたたかな光の膜に包まれて、目が覚めた。凍えた体に、ぬくもりが染み渡る。こんなにも心地よい場所は初めてだ。
ああ、私は死んだんだ。よく母に、「お前は地獄に堕ちる、堕ちてしまえばいい」と言われてきたが、少なくとも、ここは地獄ではないようだ。
私を見つけてくれた者は、体を埋葬してくれただろうか。いや、もういい。体など、なんの意味もない。たとえ身ぐるみを剥がされ、あの海岸に捨てられたままでも、鳥や獣たちの餌になれる。やっと見つけた、私の安寧の場所…
「いっ…あっ!?」
しかしその安寧は、左腕からの凄まじい痛みで破られた。
「なんだ、今頃そんな声を出して」
春に咲く花のような、優しい匂いがする。瞼を開くと、見知らぬ女が顔を覗き込んでいるのが見えた。
全身で感じる、滑らかな布の肌触り…どうやら私は、ベッドに寝かされているようだ。
「な、」
「人間なのに、恐ろしい生命力だね。普通なら死んでいたんじゃないかな」
気怠げな瞳、薄い桃色の長い髪、私と同じ年頃くらいだろうか。だが、なんとなく本能で感じる。この者は恐らく…
「なぜ…」
「なぜ?なぜ助けたかって?」
女は、息がかかるほど顔を近付けてきた。髪の毛と同じ、薄い桃色の瞳をしている。
「君から、生きようとする力を感じたから」
嘘だ…私は死に場所を探しているんだ。生きることに、希望を見出してなどいない。
「嘘じゃないよ。現に、君の体は死を拒否した」
「ぐ…あっ!?」
女は、無遠慮に私の左腕を掴んだ。だが、本来ならばそこにあるはずの左腕は、肘から先が失われていた。やはり、あの時に切断されていたのか…
「傷口が焼けていた。そのお陰で、出血が少なかったんだろうね。まあ、それでも放っておいたら腐るから、手当はしておいたよ」
「い、一応訊くが…ここは、死後の世界ではないんだな…?」
「子どもじゃないんだ、一度で理解しなよ」
「…すまない」
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