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恋とウグイス
「ご覧のように、六対三で大山高校が勝ちました。大山高校の栄誉を讃え、同校の校歌を斉唱致します」
――よかった、今日もこの台詞を言うことが出来た。
西野楓は県立球場のバックネット裏の下に位置する放送席でカセットテープを機器に差し込んで再生ボタンを押しつつ、小さく息を吐いた。
すぐ隣では対戦相手だった鴨川高校のマネージャーであろう私と同じ制服姿のポニーテールの女子が俯いてポロポロと涙を零している。
校歌を肩を組んで、音程無視し怒鳴り声で歌う大山高校の選手のようにこの場で喜びを全身で表現できたらどんなに良いだろう。
「……あの、」
校歌を流し終えた頃、涙を零していた彼女は私に口を開く。
「……絶対にっ……次も、その次も、最後のっ、アナウンスをっ……してあげて、下さい」
泣きじゃくる彼女は嗚咽を止めることが出来ないまま、言う。
――ご覧のように、○対○で○○高校が勝ちました。○○高校の栄誉を讃え、同校の校歌を斉唱致します。
放送席に置かれた台本で、唯一勝者側の高校ウグイスだけが言うことができる台詞がこの一文だ。
「……わかりました。次もきっと言います」
涙を止められないまま彼女が差し出してきた手を、私は両手で包み込むように握った。
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