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(ダリウスはそんな人じゃない!)
前帝として戦場に居たダリウスを思い出し、私は頭を振った。見惚れていた──とは言いすぎかもしれないが、鎧を身に纏い戦場を闊歩する姿こそ彼の本来の姿なのだろう。心が躍らなかった──といえば嘘になる。けれども前帝としての彼は、普段の姿とは異なり別人のようにも思えた。
近いようで遠い。
戦闘こそ役に立ったと自負しているが、その後の兵の配置や指示出しなどにおいて私はお荷物というほど役に立たなかった。こんな時、軍師としての知識があった刀夜や、周囲への気配りの上手かった陽兄、温かな笑顔と美味しい食事を用意してくれた母様、存在するだけで心強さとカリスマ性を発揮した父様。改めて私は戦う以外に人並み以上に出来るものがない。
これではお飾りじゃないか。とてもではないがダリウスの隣には──。
そこまで考えて私は再び頭を振った。寸前で叫びそうにもなった。
(気づけばダリウスの事ばかり考えて! それじゃあ、まるで私がダリウスの事が好きで、好きで、気になってしょうがないみたいじゃない!?)
もはや隠し切れないほど、ダリウスへの気持ちが育っていた。けれど私はそれを認めたくなくて、自分の気持ちを閉じ込める。
吊り橋効果というものがある。今日の彼の姿を見て、美化されて──好きという気持ちだと勘違いしたのかもしれない。
誤魔化して、濁して、目を逸らす。
私は怖がりだ。
本当は誰よりも弱くて、人を信じるのが怖い。
大きくため息を一つ吐くと、私はシャワー室から出た。
白のガウンに袖を通して、寝室へと直行する。今日は色々とありすぎた。久々の稽古もあったのだ、気疲れもあったのかもしれない。寝室も魔導具によって物が転移したのだろう。
ふかふかのベッドに体を沈める。白いシーツからは、ほんの少しだけラベンダーの香りが鼻腔をくすぐった。横になった途端、急に疲れが出たのか、睡魔が襲う。
(少し休んだら、森を散策しなきゃ……)
近くにある毛布を手探りで探し、自分にかけたところで意識は途切れた。
***
「ずっと、この時を待っていたよ。やっぱり追いかけてきてしまったんだね────結月」
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