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可笑しいとは思っていた。けれど「刀夜が何かした」などとまでは、考えが及んでいなかった。本当は思いついていたのかもしれない。けれど、そう思いたくなかった。
刀夜が魔物を生み出している。または手引きしている──などとは。
「ああ、僕は魔物を作ってもいないし、出現するように手引きもしていない」
「!?」
「国の中に顕現しそうな魔物が居たら、城砦ガクリュウ付近の降魔ノ森に転送するという転移魔導具しか作らなかったしね。でもそれはいけないことだろうか? 突如、帝都に現れるよりずっと建設的だろう?」
「それは……」
私は言葉に詰まる。刀夜は優しく微笑んだ。
「だよね。魔物は実際に別次元からこの世界にやってくる──疫病のようなものだ。けれどね、厄災なんてものはこの世界にだって存在する。龍神族の魂が穢れ切った時、邪龍になるように、人間だって魂が真っ黒に染まったら──変質する」
「!?」
「元が人間だった魔物か、それとも別の世界から侵略しに来た魔物か。僕たちですら見分けることは出来ない」
あっけらかんと刀夜は、魔物の正体を暴露した。嬉々として語る彼に、私は足に力が入らず、その場に座り込んだ。
彼は少しずつ近づいてくる。ゆっくりと、しっかりとした足取りで。
「それにしても、僕に少しでも気を許してくれてよかった。「もしかしたら、刀夜にも何か事情があるんじゃ?」とか「この世界を刀夜が作ったのなら、それは龍神族としては良いことなんじゃ」なんて可愛いことを思ってくれたんだろう。だから、僕はここに来られた」
「同胞を殺したのは……なんで」
「言っただろう。君を蔑んだ同胞なんて死んでしまえばいい」
「な──」
「じゃなきゃ、みんな邪龍にすらならない魔物になっていただろうさ」
「…………っ」
その言い回しだと全て計算通りだったのだろう。私のすぐ傍に歩み寄ると、膝を立てて私と同じ目線になる。
「ねえ、結月。「求婚印」というのを知っているかい?」
「え? つがいとなる「刻龍印」ではなく?」
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