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小さな池でカルガモの親子がのんびりと泳いでいるのを見つけた。子ガモは一、二……全部で五羽いる。母ガモを取り囲んで水面を滑るように動くその姿は、本当に愛らしい。
カルガモはああやってのんびりしていても、誰にも文句を言われない。それどころか人間に愛でられる存在だ。なんて自由なんだろう。歩実はぼんやり、「羨ましい」と呟いた。
「鳥になりたいのか?」
「え?」
どこからともなく声をかけられて、歩実は辺りをぐるりと見回した。誰もいない。不審者かも、と薄ら寒さを感じ、敷地の外へ向かって踵を返す。するともう一度、「鳥になりたくないか?」と背中から呼びかけられた。
声のする方を恐る恐る振り向くと、神社の本殿だった。
「まさかね……。そんなわけないでしょ」
疑いを口にしつつも、歩実の足は本殿に向かって引き寄せられていく。じっとりとした汗が、「近づいてはいけない」と警告するように肌にまとわりついてくるのに、止められない。
本殿に上る階段の前で、歩実はようやく立ち止まった。そよ風に樹々がざわめき、空気が肌を撫でて汗を取り払おうとしてくる。普通なら気持ちいいのに、なぜか鳥肌が立った。
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