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神様から与えられた試練は、「子ガモたちを連れて川辺へ引っ越すこと」だった。毎年この時期になるとニュースを賑わす、カルガモ親子のアレだ。子ガモの成長に合わせ、新たな餌場へ移動するのだ。
ちゃんと連れて行かないと歩実を元の姿に戻せないという。まったくとんだご利益だ。
子ガモたちは、カルガモの姿をした歩実を親と慕い、よちよち歩きで付いて来る。五羽ともぴいぴい鳴いている。私もよく、泣きながらお母さんに手を引かれてたな。母ガモとなった歩実は、子ガモにかつての自分を重ね合わせていた。
何事も起きないことを祈りながら神社を出ると、さっそく関門が待ち構えていた。
「あ、鳩がいる」
「ちげーよ、鴨だろ」
甲高い声が聞こえ、歩実はぎょっとして立ち止まった。小学生くらいの男の子が二人、近寄ってくる。
庇護欲をそそる姿にたいていの人間はカルガモ親子を優しく見守るものだと歩実は思っていたが、この子どもたちはどうか。歩実は一歩二歩と後ずさった。
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