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初夏の爽やかな風が、歩道を力なく進む歩実の長い黒髪を撫でた。
また喧嘩してしまった。母の飛鳥に朝から自分の部屋でだらけていたところを叱られた。部屋を片づけろ、部活をさぼるな、勉強しろ、そろそろ高校卒業後の進路を考えろ――。当たり前のことだが上から被せるように次々と言われて、カチンときてしまった。
「うるさいな、ほっといてよ!私がいるとあの人と再婚するのに邪魔だから、さっさと自立させたいだけでしょ!?」
「ちょっと、歩実!待ちなさい!」
歩実はほとんど衝動的にアパートの一室を飛び出した。どうしたらいいのか分からなかった。
こんなとき、歩実はたいてい、家から程近い土手まで歩くことになる。穏やかな川面を眺めると少しは気分が落ち着く。
どうしてこんなに息苦しいのだろう。締め付けられた胸に空気を取り込む気持ちで見上げると、名前も知らない鳥が気持ちよさそうに羽ばたいている。いっそ鳥になって、どこへでも飛んで行ければいいのに。そんなことを考えながら歩いていると、正面に鳥居が現れた。
家の近くにある、そこそこ広い神社だ。まだ小さいとき、親と散歩したときによく連れて来てもらったっけ。あの頃、お母さんと一緒にいっぱい笑ったけれど、いっぱい叱られもしたな。それは今と変わらないか。幼い思い出に引かれるように、歩実は鳥居をくぐっていた。
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