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「な、なにか用?」
ビックリしたのを悟られないように努めつつ尋ねると、Y美さんは暗い目を細めて、
「諒子ちゃんってスゴいね。格好良くて、可愛くて、みんなに好かれてて。わたしも、諒子ちゃんみたいになりたいって、ずっと思ってた」
そう早口に言った。
「そ、そう……」
「でも、無理っぽいの。わたしはブスだし、頭も悪いし、それに、すぐネガティブなことばっかり言っちゃう」
性格のことはともかく、確かにY美さんは、整った顔立ちとはいえないらしい。
「そ、そんなに、自分のこと悪く言わなくてもいいんじゃない?」
「ううん。しょうがないの。事実だし。わたしは、どう頑張っても諒子ちゃんみたいにはなれない。だからね、止めたの。諒子ちゃんみたいになろうとするの」
このとき、諒子さんは毒虫が目の前を這っているかのような気分に襲われた。それほど気味が悪く、どこかネジが外れている感じがしたのだ。
そして、Y美さんの言動はさらにおかしなものになっていく。
「わたしは、諒子ちゃんになるの。”みたい”じゃなくて、諒子ちゃんそのものに!」
「な、なにそれ……」
「こんな身体、もういらない。わたしは魂だけになって、諒子ちゃんの中に入るの。そうすれば、わたしが諒子ちゃんになれるんだよ!」
「頭おかしいんじゃないの!?」
あまりに常軌を逸した彼女の言葉に、諒子さんは書きかけの日誌を閉じ、荷物を手に職員室へ向かった。
そして先生に、Y美さんのことを報告していた、そのときだ。
バリン、という固い音がしたかと思うと、数秒後、土嚢のような重い物が落ちる音が聞こえた。
同時に、生徒たちの甲高い悲鳴が響く。
Y美さんが、廊下から飛び降りたのだ。
どうやら窓を突き破ったらしく、遺体には割れた窓ガラスの破片がいくつも刺さっていたという。
現場を見てしまった生徒たちの話では、Y美さんは絶命した後も、その笑みを顔に貼りつけたままだったそうだ。
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