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「ただーいまー」
「おかえり智枝。」
残業を終えて家に帰ってくると、いつもならとっくに寝てるはずの母が満面の笑みで出迎えてきやがったので、私は思い切りため息を吐く。
「受けないから。」
「あら。お母さん、まだなんにもいっとらんよ?」
「言わなくても分かるわ。どうせお見合いでしょ?何度も言わせないで。私相手は自分で…」
「そう言うて、結局ずるずる…今月でもう29じゃろ。お母さんあんたのこと心配して…」
…んあーーーー!!
もう…
メーンドクサーイ!!
大体何?!!
晩婚化が当たり前になってるこの世の中で「もう」29?!
「まだ」29の間違いでしょ?!!
ああっ!言ってやりたい!!
この昭和の石頭っ!!…って!!
でも、お金を入れてるとはいえ、実家に頼っている身としてはあまり強い態度に出れなくて…渋々見合い写真を見たけど、全っ然好みじゃなくて、私はポイとそれを食卓に置く。
それでも母は諦めず、写真の束を持って迫ってくるので、お腹は空いてたけど自室がある2階にあがろうとしたら…
「ああそうだ。あんたこれもきとったよ。同級生なら、馬が合うんじゃない?ホラ、あんたちっちゃい頃男の子とばあ遊んどったし。」
「ええ?」
一体何を言い出したのだと母の方を向くと、差し出されたのは、1枚の往復葉書。
目に飛び込んだのは「海花(うみはな)小学校同窓会のお知らせ」
「同窓会…」
顔を曇らせる私に、母はニッコリ笑う。
「タカちゃん。来るんじゃない?仲良かったじゃろ?」
「別に…」
興味ない素振りをしたが、母にはバレバレのようで、私は恥ずかしくなり2階に駆け上がる。
扉を開けて、ベッドに突っ伏し、改めてハガキを見つめ、そっと唇に触れる。
「出席…してみようかな?」
この間見た夢も、きっと何かの暗示かもしれない。
タカちゃんに、あの時のことを聞けるチャンスかもしれないと。
そう思うと、胸がドキドキしてきて、忘れていた恋心が目を覚ます。
化粧台に座ると、地味なアイカラーに口紅にチーク。
クローゼットには、スーツと暗い色のシャツとジーンズ。
冴えないお下げに眼鏡の、正に地味子。
これじゃいけないと思い、同窓会までの1ヶ月、私は自分磨きに精を出す事にした。
まあ、タカちゃんだって、あの頃は坊主でタンクトップに短パンと言う山猿みたいな風体だったから、そんな素敵な男性になってるとは思わないけど…
けど…
「可能性は、ゼロじゃないもんね。」
箪笥の上に飾ってた、タカちゃんとの思い出の写真を見つめながら、私は同窓会のハガキに参加の印をつけた。
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