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「ね、ねえねえ皐月って…いつもどんなとこで買い物してるの?」
私の問いに、同じ課の友人「叶皐月(かのうさつき)」は怪訝な顔をする。
「な、なに?」
「いや、質素倹約がモットーの智枝の口から買い物なんて聞いたらさ、そりゃこんな顔になるさぁ。…なに、着飾って見せたい相手でもできた?」
「ち、違うわよ!…そう!イメチェン?29だし?そろそろ大人の色気をだしたいって言うか…」
「色気…ねぇ〜」
ジローと、皐月は私の平面に近い身体を上から下まで見る。
くっ!
そりゃあ、市民課一のナイスバディを誇る皐月と私じゃ月とスッポン!分かってるわよ!
でも、こんな相談できるのは皐月しかいないからお願いと手を合わせて懇願していた時だった。
「あの…死亡届って、こちらでよろしいでしょうか?」
品の良さげな老婦人に呼ばれ、私は窓口に行く。
「はい。死亡届ですね。お名前は…棗藤次(なつめとうじ)様。届出人は、奥様ですね?」
「はい。妻の…絢音(あやね)です…」
「承知しました。身分証拝見してもよろしいですか?」
そうして粛々と処理をしていたら、急に老婦人…絢音さんが泣き出す。
「あの…」
どう言葉をかけようか迷っていたら、絢音さんは泣きながらもニコリと笑う。
「ごめんなさいね。手続きしてたら、本当にあの人…死んじゃったんだなぁって、そしたら、悲しくて…」
涙を堪えて手続きする絢音さんを見つめながら、私は無意識に言葉が口をついた。
「愛してらしたんですね。ご主人様を…」
な、何言ってんだ私!
ほら、絢音さんキョトンとしてるじゃん!!
夫婦なんだから愛し合ってるはずじゃない。
でも、絢音さんが発した言葉に、私が今度はポカンとすることになる。
「いいえ。あんな約束破りな人、ワタシ大嫌い。」
…へっ?!
涙は流してるけど、はっきりキライと聞こえた。
訳もわからないまま手続きは終わり、帰って行こうとする絢音さんだったが、彼女はやおら私に問う。
「可愛い職員さん。あなたお幾つ?」
「えっ!はっ、29です。」
その言葉に絢音さんはふっくり笑う。
「じゃあ、まだまだこれからね。彼氏さんは?」
「い、いません…」
な、なになに?!
あって間もないお婆ちゃんに、何正直に話しちゃってるの?!
…でも何故か、この人になら話しても良いって気がして、私は口を開く。
「こ、恋はしてます。どこにいるか、分からない人ですが…」
すると、絢音さんは一瞬目を丸くしたのち、優しく私に笑いかける。
「そう。大丈夫。信じて待ってらっしゃい。神様がきっと、味方してくれるから。」
そうして、お婆ちゃんとは思えない可愛いウインクをして去っていく絢音さんの後ろ姿を見ていると、皐月がやってくる。
「棗さんいらしたのね。旦那さん亡くして大変だろうに、施設に入らず1人で過ごすって、大丈夫なのかな。」
「えっ、なに?皐月詳しいの?」
「詳しいっていうかさ。うちの母がよく手料理習いに行ってたのよ。でも、旦那さん…そこに書いてある藤次って人はずっとむっつりしてて、まるで自分達の時間を邪魔するんじゃないって感じでさ、結局通わなくなったの。よっぽど惚れてたんだろうね。奥さんに。」
「で、でも、奥さん、あんな約束破りキライって…」
私の問いに皐月はああと声を上げる。
「これも、母が葬式の日にこっそり聞いたらしんだけどさ、棗さん、死ぬ時は一緒って互いに約束してたらしいんだけど、最後の言葉が生きろだったらしくてさ、死ねなくなったって…大切な人にそう言われたらさ、いやでも生きていかなきゃって思うよねー。羨ましいな。そんな愛されかたされて…」
「ふーん…」
涙を流すくらい愛する人。
私にもいつか現れるのかな。
それとも、もう出会ってるのかな?
タカちゃん…
会いたいよ。
どこに居るの?
早く一か月、過ぎないかな…
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