海の花

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タカちゃんに連れてこられたのは、「BAR海風」と小さく書かれた、隠れ家みたいなバー。 バーなんて初めてで戸惑っていると、タカちゃんが肩を抱いて来てスマートにエスコートしてくれるから、私の胸は、また高鳴る。 「こんばんはマスター。いつものくれる?彼女には……アルコールは?飲める?」 「あ、うん…一通り…」 「じゃあ、とりあえずカルーア&ミルクでも飲むか!」 「う、うん!」 そうして席について、お互いのドリンクが来るのを待ってたら、タカちゃんが徐に口を開く。 「カルーア&ミルクか…思い出すなぁ〜お前俺に散々悪戯されたもんな。服の中に虫入れられるなんて当たり前。落とし穴。挙句の果てにはパシリ。ホント、今の世ならイジメだぞ?って感じだったな。」 「な、なによ!タカちゃんだって、スカート捲ったり、大事にしてたピカピカのビー玉割ったり色々私にしたじゃない。だから、仕返ししたまでよ!」 あまりにも心外だったから言い返してやると、タカちゃんはクスリと優しく笑う。 「でも、綺麗になった。マジで見違えるくらい、綺麗になった。なんか俺、自信無くしちまう。…なあ、今、付き合ってる奴、いるの?」 「えっ?!」 な、なに?! 付き合ってる奴いるかって… それって…つまり… 言葉に詰まっていると、タカちゃんは寂しそうに肩を落としてポツリと呟く。 「いるよな〜。こんなに綺麗なんだ。言い寄ってくる男なんて、ゴマンといるか。」 「ち、ちがうちがう!!び、びっくりしただけ。タカちゃんから、そんな質問されるなんて思わなかったから…今は、いないよ?」 「…ホントに?」 「う、うん。」 何度も首を縦に振って意思表示すると、忽ちタカちゃんは笑顔に…子供の頃の面影が残る顔をするから、私はまたドキドキと胸を高鳴らせる。 「じゃあ、アタックして良いわけだ。俺…」 「えっ?!」 瞬間だった。 タカちゃんの唇が、私の唇を塞いだのは… 不意に、あの夏の日が…初めてこうした日を思い出して、私はうっとり瞼を閉じる。 角度を変えて、2、3回…人目が気になったけど、離れるのが嫌で、何度も触れるだけのキスをしていたら、タカちゃんから唇を離し、耳元で囁かれる。 「好きだ…ガキの頃から、ずっと…」 …やっぱり。 あれは、私達の、ファーストキスだったのね。 溢れる涙を拭いながら、私もタカちゃんに囁く。 「私も…ずっと、好きだった。今も、昔も…」 「じゃあ…行こ?」 「何処に…?」 ドキドキと高鳴る胸の音で喉が詰まって、絞り出した掠れた声で問うと、タカちゃんにまた肩を抱かれ、囁かれる。 「ホテル……その先は、分かるよな?」 「で、でも…再会してまだ2時間…いきなりすぎるよ。それに、私……したことないから……」 「は?」 瞬くタカちゃん。 そう。 女に生まれて29年。 私は、未だに男を知らない…処女。 付き合ってて、何度かそんな雰囲気になった男の人はいたけど、どうしてもタカちゃんの顔がちらついて、初めてはタカちゃんが良いって思ってて、ズルズルここまできてしまったのだ。 だから、そのタカちゃんにホテルに誘われるのはすごく嬉しいんだけど… 顔を真っ赤にしてモジモジしてると、タカちゃんは私を抱き寄せ立ち上がらせると、会計を済ませて店を出る。 やっぱり行くんだ。ホテル… 身を固くして一緒に歩いていたら、連れてこられたのは最寄駅。 えっ?!と目を丸くしてると、タカちゃんは照れ臭そうに笑いながら、スマホを取り出す。 「連絡先、教えて。」 「あ、う、うん!」 そうしてメアドと電話番号を交換すると、タカちゃんはまた私にキスをする。 「今度の土日、水族館にでも行こ?好きだろ?イルカ。」 「で、でも………するって……」 消え入りそうな声でそう問うたら、タカちゃんは優しく笑って私を抱きしめる。 「ともちゃん…智枝の気持ちが整理つくまで、待つよ。確かに、ちょいがっつき過ぎてた。悪い。」 「で、でも私…タカちゃんになら…」 チュッと、額にキスされて、タカちゃんは私の頭をポンポンと撫でる。 「これからは俺のこと、隆って呼んで?俺もう、ガキじゃねーから。」 「う、うん。分かった。…た、隆。」 「うん。じゃ、俺代行拾うからここで。…おやすみ。智枝。」 そう言って颯爽と去っていくタカちゃんは、本当に…あの山猿タカちゃんからは想像できなくて、電車に乗っても、私の胸はずっと…高鳴ったままだった…
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