海の花

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…それから週末、私は隆……… ……… う、うーん、 慣れない。 今までタカちゃんだったんだもん。いきなり隆って呼べって言われても無理だよ。 ま、まあ、そんなことはさておき、私は彼氏になったタカちゃんと、宮島の水族館に来てた。 イルカショーを見て、はつこい庵と言う鯉や金魚が揺らめくブースに行くと、タカちゃんが言う。 「この水槽の中に、幸せのハートマークが付いた鯉がいるってよ。」 「えっ!?ホント!!どこどこ?!」 「そんなに簡単に見つかるかよ。ウヨウヨ動いてて、探しづらいし…………あ。」 不意に、タカちゃんがスマホを取り出し、何かを撮影する。 「な、なになに?!見つけたの?!!」 「おう!ほら、これ!黒のハート!!」 差し出されたスマホには、ハート形の鱗が可愛い鯉の姿。 可愛い!! タカちゃんにねだって、画像を分けてもらい、ホクホク顔でそこを後にすると、不意にタカちゃんに手を握られる。 「タカちゃん?」 どうしたのと顔を見上げると、タカちゃんは真面目な顔で私を見つめていたから、ドキッと胸が高鳴る。 「…実は、今日ここに、宿取ってんだ。で、そろそろチェックインの時間なんだけど…」 「え…そんな、困るよ。私、何にも用意してない。着替えだって…」 「それなら、予め部下に用意させた中から、選んでくれれば良いから、だから…」 ギュッと、タカちゃんに更に強く手を握られる。 って言うか… 「タカちゃん…部下って、そんなに偉い人に、なったの?」 問う私に、タカちゃんはポケットから金色の小さなバッチを取り出す。 中央に天秤のマークが彫られたバッチ… これって…たしか… 「奨学金と、ある人の支援で、なった。むっちゃ頑張ってだけどな。今、弁護士やってんだ。俺…」 「う、ウッソだぁ〜!だって、いっつも算数で0点だったタカちゃんが弁護士なんて…だ、大体そのバッチだって、ネットかなんかで買って、おどかそうとしたんでしょ!騙されないんだから〜」 そう言って笑って見せると、タカちゃんは一枚のカードを示す。 「じゃあ、これから信じてくれる?日弁連が出してる、身分証。」 「えっ?」 不思議に思いながら、免許証サイズのカードを差し出されたので見ると、「ひまわりの中に秤」のマークと、タカちゃんの名前、登録番号と書かれた数字。先島(さきしま)弁護士事務所と、そこの住所らしきものが書いてあり、私は目を丸くする。 「な?本物だろ?なんなら先島先生に連絡するか?秋永隆は、そちらの弁護士ですかって…」 「い、いいよ!分かったよ!でも、信じられない。タカちゃんが弁護士なんて…私なんてしがない市役所職員だよ。成績は私が上だったのに…」   「だーから、めちゃくちゃ頑張ったっつてるだろ?…恩返ししたかったんだよ。その、支援してくれた人に…」 「…その人って、女の人?」 「!」 や、やだ… わたしったら、またしょうもないヤキモチ… 口を押さえて、言ってしまったことを後悔するように俯いていたら、タカちゃんに頭を撫でられる。 「ちげーよ。熊みたいな毛むくじゃらの、オッサン。名前は、宮里寛治(みやさとかんじ)。今も俺を養ってくれてる、恩人。」 「養うって、タカちゃんおじさんとおばさんは…?」 問う私を、タカちゃんは抱き締める。 「タカ…」 「その先が知りたかったら、ホテル…来てくれるか?」 「………わ、私…」 「ダメか?待つって言ったけど、俺、智枝が…」 「良い。」 「えっ?」 瞬くタカちゃんに、私は震えながらも笑いかける。 怖い… 確かに、タカちゃんと一緒に夜を過ごすのは…恋人同士が宿に泊まる意味と行為を、私は怖がってる。 でも、タカちゃんがここまでして、私を求めてくれるなら…もう、逃げない… そう意思を伝えるように、踵を上げて、タカちゃんにキスをする。 「智枝…」 優しく抱かれて、うっとりとタカちゃん…隆の逞しくなった胸板に頬を寄せる。 「でも、一個だけ約束して。…優しく、してね?」 「ああ…分かった。好きだ…智枝。」 「…私も、好きよ。隆…」 そうして、もう一度キスをして、私と隆は、宿へと向かった。
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