Ⅱ 私掠船長への道

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「ヘドリー君。我らが国王陛下のために働きたいというのであれば、君には二つの選択肢がある……ここの港に立ち寄る私掠船の船長と直接掛け合うか、あるいはトリニティーガーへ行って自分の乗る船を探すかだ」  そんな選択を迫られたヘドリーは、しばし黙して考え込む……。  そして、悩んだ末に彼は、ここプエルト・レアルで雇い主を探すのではなく、先ずはトリニティーガーへ渡ることを決心した。  またもや描いていた路線からは少々外れることとなってしまったが、まあ、海賊も水兵も言ってみれば似たようなものだし、海賊になるのに異存はない。  ただ、海賊の業界が如何なるものかをヘドリーはよく知らなかったし、どの一味の船に乗るのが正解かもよくわからない……だから、まずは本場(・・)へ行ってみて、〝海賊〟というものをよく知るところから始めようと考えたのである。 「そうか。ならば、トリニティーガーへ行く船に話をつけてやろう。期待しているぞ、ヘドリー・モンマス君。我らが祖国と国王陛下のために励みたまえ」  こうして、事務的ながらも応援してくれるリッチー公に見送られ、トリニティーガー島へと向かったヘドリーは、そこでいよいよ海賊としての人生をスタートさせることとなった。  最初の内は臨時雇いの船員に応募して海賊の仕事を学んでいたりしたが、やがてノウハウを身につけてそれなりの資金も貯めると、仲間を集めて小型のスループ船を購入し、独立して一味を構えるようになった。  身分階級や徒弟制度、門閥などでギチギチに固められたカタギの社会よりも、こうした点で海賊の世界はなんとも自由だ。どの海賊船に乗るも降りるもすべては自分次第だし、実力さえあれば新規参入もそう難しいことではない……ヘドリーが当初抱いていたイメージとは異なり、図らずも〝海賊〟という職業にこそ、立身出世の好機(チャンス)が転がっていたのである。  そんなわけで水を得た魚の如く海賊街道をまっしぐらで突き進み、自分達の船までも手に入れたヘドリーであったが、ここで思いがけずも農場での経験が多いに役に立つこととなる……。  あの五年に渡る年季奉公で集団内の調停や人を使うことに慣れていたヘドリーは、仲間達からの人望も厚く、全会一致で船長に選出されたのである。  ああ、ちなみに海賊は意外と民主的にも、船長や重要事案の決定に選挙が用いられている……。 「ああ、ええと……この度、船長に任命されましたヘドリー・モンマスです。皆さん、これからもどうぞよしなに」  さすが郷紳(ジェントリ)出身だけあって生真面目な性格のヘドリーは、そんな腰の低い所信表明を仲間達の前で行うと、この後も真面目に海賊稼業を営んでいくこととなる。  そして、晴れて海賊船の船長となった彼は、いよいよ私掠免状をもらいにプエルト・レアルを訪れたのであったが……。
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