Ⅲ 集積地への大遠征

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「さすが新天地。どんな野獣が現れてもおかしくないような景色だな……」    河口近くでスループ船を降りたヘドリー達は、数艘のカヌーに乗り換えるとホァンホァン川を遡ってニカワカワ湖を目指す。  このだだっ広い大河の左右にはこんもりとした熱帯雨林が生い茂り、原住民の話では白黒の毛をしたクマのような珍獣がいるとも云われている。 「皆、武器はしっかり隠しておけよ? この川はエルドラニアのヤツらも頻繁に往来してるんだからな。怪しまれれば作戦は台無しだ」  その川を、ヘドリー達は植民者の漁師やエルドラニア商人のフリをして、なるべく目立たないようにゆっくり遡上してゆく……例の原住民が水先案内に立ってくれたため、一向は順調に船を進め、難なくニカワカワ湖まで到達することができた。 「よーし! 私は先に行って準備を整えておく! 日が暮れたら夜陰に紛れて湖を渡れ! 全員到着次第、いよいよお勤め開始だ!」  さらにヘドリーはニ名の精鋭と原住民を連れただけの、少人数でニカワカワ湖を横断するとグランナダールの街へ潜入し、密かに奴隷達の間を回って絶好の機会が訪れたことを知らせる。  そして、夜半……他の者達も対岸からやって来ると、ついにヘドリーによる奇襲作戦が始まった。 「全員、突撃ぇぇぇーき!」  カットラス(※海賊が好む短めのサーベル)を振り上げ、景気付けの短銃を夜空にぶっ放ちながら、ヘドリーを先頭に一味の者達はエルドラニアの総督府へと突撃してゆく。  生真面目で礼儀正しい性格ながらも、体躯に恵まれたヘドリーは戦闘でも勇猛果敢な働きを見せる。 「て、敵だ! 敵襲ーっ! 敵襲…うぐあっ !」 「い、いったいどこから…うぎゃあ!」  まさかの襲撃に、油断を突かれた駐留軍の兵士達は瞬く間に恐慌状態へと陥った。 「怯むな! 賊は少数だ! 数では我らに部がある!」 「全員、放てーっ! クソ! こんなことなら総督府を要塞化しておくべきだった!」  それでも徐々に迎撃体制を整え、反撃を始める駐留軍ではあるが、常時、海賊の脅威に晒されている海沿いの都市とは違い、内陸のグランナダールに堅固な要塞がなかったのもヘドリー達に味方する。 「みんなーっ! ついにこの日がやって来たぞーっ! 奴隷生活とはおさらばだーっ!」 「俺達は自由だーっ! エルドラニアの悪魔達を殺せーっ!」  そして、事前の打ち合わせ通りに襲撃を合図として、一斉蜂起した原住民の奴隷達が、この戦いの行方を決定的なものとした。
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