Ⅳ 大農場の村長

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Ⅳ 大農場の村長

「──いやあ、ここ最近は君らの話で持ちきりだよ。まさかあのグランナダールの襲撃に成功するとはねえ……今ならば文句なく、君に私掠免状を与えることができるよ、ヘドリー君…いや、船長(キャプテン)ヘドリー」  グランナダールへの遠征を成し遂げ、大きな富と名声を手に入れたヘドリーは、後日、プエルト・レアルに赴くと、出迎えたリッチー公からそう言って私掠免状を手渡される。 「ありがとうございます。これからはこのシャマンガルド島へと拠点を移し、祖国と国王陛下の御ため、港の防衛をするとともに、よりいっそうエルドラニアの船を沈めることに尽力いたしましょうぞ!」  免状を受け取り、礼と決意を新たに述べる今日のヘドリーは、リッチー公同様にカールした白髪の鬘を被り、アルビトン連合王国を象徴する赤色のジュストコール(※ロングジャケット)も羽織っている……つまり彼も海軍の将校に準ずる、祖国のために働く公式の海賊として認められたというわけだ。  ついでに言うと、乗船もこれまでの小型スループ船から、新造の大型ガレオンを購入してそれにヘドリーは乗り替えている……形式ばかりではなく、見た目も装備ももう立派ないっぱしの船長なのだ。 「うむ。期待しておるぞ、ヘドリー君。しかしな。君は少々有名になりすぎた。ここにいられてはむしろエルドラニアの艦隊を呼び込むことになりかねんからな。今後もトリニティーガーかどこかで頑張ってくれたまえ」 「ええ〜そんなあ……せっかく私掠船の船長になれたっていうのに……」  しかし、新米私掠船長として意気込みを見せるヘドリーは、続けてそんなことをリッチー公から言われてしまう。  グランナダールで掠奪を行ったヘドリーは、当然、エルドラニアの怒りを買い、懸賞金をかけらると絞首台送りにする機会をずっと狙われているのである。  そんな彼が周りをうろちょろしていては、今はさほなどないエルドラニアの興味を、あえてこのプエルト・レアルに惹きつけるようなものだ。 「ま、確かにその方が賢い選択ではありそうですな……」  それに自身も付け狙われている身の上としては、防備が手薄なプエルト・レアルで暮らしているよりも、島ごと要塞化されてエルドラニアもおちおち手が出せない、海賊の巣窟トリニティーガーに逃げ込んだ方が何十倍も安全であろう。 「そう気を落とすな。君らがエルドラニアの船を襲ってくれるだけで、直接警護してくれなくともプエルト・レアルから脅威を退け、エルドラニアには経済的打撃を与えることになるのだからな。そうだ! 私も一緒に行って、同じ私掠船長の先輩に君を紹介しておこう。船長(キャプテン)ウォルフガンク・キッドマンは知っておろう?」 「ええ、もちろん。この界隈では知らぬ者のない大海賊です。そうか。考えてみればついに私も、あの大海賊キッドマンと同じ、国王陛下公認の私掠船長の仲間入りを果たしたということか……」  プエルト・レアルからの退去を言い渡され、一時は落胆するヘドリーであったが、リッチー公のその言葉を聞くと、再び私掠免状を得た喜びが込み上げてくる。
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