0人が本棚に入れています
本棚に追加
だとしたら、その人形の無表情の下に隠された真の彼女を見ないことには、国王が見たいと望む心からの笑顔など描けはしない。
――まあ、こちらは海辺の別荘ですわね。王妃さまがまるで海の女神のよう。
――黄金の椅子と小冠、これは堂々たる王妃の肖像となりますわ。
――礼拝堂の荘厳で敬虔な肖像画も、またよいものですわね。
さまざまな肖像画の案について、女官がさまざまに論評していく。
ええ、とか、まあ、とか、言葉というより音に近い相づちを打つ王妃の表情は、やはり動かない。
(そう、そのあたりはつまらんでしょうな、王妃さま)
セヴランの仕込みは、そうした無難な案のなかにまぎれてさせてある。
「あら、これはあまりにも突飛ですわ」
女官があきれたような声をあげ、すぐに次の案へと移った。
だがその瞬間、素描を見る王妃の目に初めて見る光が宿ったことを、セヴランの鋭い視線は見落とさなかった。
やがて見終えた女官は、王妃に黄金の椅子に座った肖像画を勧めた。
王妃は素直にうなずき、女官は改めてセヴランにその案で肖像画を描くように求めた。
「かしこまりました」
硬く座り心地の悪い黄金の椅子は、実際に王妃に座ってもらう必要はない。
別のもっと楽な椅子に座ってもらい、セヴランは肖像画にとりかかった。
最初のコメントを投稿しよう!