王妃と画家

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 だとしたら、その人形の無表情の下に隠された真の彼女を見ないことには、国王が見たいと望む心からの笑顔など描けはしない。  ――まあ、こちらは海辺の別荘ですわね。王妃さまがまるで海の女神のよう。  ――黄金の椅子と小冠、これは堂々たる王妃の肖像となりますわ。  ――礼拝堂の荘厳で敬虔な肖像画も、またよいものですわね。  さまざまな肖像画の案について、女官がさまざまに論評していく。  ええ、とか、まあ、とか、言葉というより音に近い相づちを打つ王妃の表情は、やはり動かない。 (そう、そのあたりはつまらんでしょうな、王妃さま)  セヴランの仕込みは、そうした無難な案のなかにまぎれてさせてある。 「あら、これはあまりにも突飛ですわ」  女官があきれたような声をあげ、すぐに次の案へと移った。  だがその瞬間、素描を見る王妃の目に初めて見る光が宿ったことを、セヴランの鋭い視線は見落とさなかった。  やがて見終えた女官は、王妃に黄金の椅子に座った肖像画を勧めた。  王妃は素直にうなずき、女官は改めてセヴランにその案で肖像画を描くように求めた。 「かしこまりました」  硬く座り心地の悪い黄金の椅子は、実際に王妃に座ってもらう必要はない。  別のもっと楽な椅子に座ってもらい、セヴランは肖像画にとりかかった。
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