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「では王妃さま、顔をもう少々こちらに向けていただけますか」
美しい顔がセヴランに向いた。
そこにわずかながら問いただすような目の光を見出して、セヴランは内心ほくそ笑んだ。
§ § §
王宮に泊まりこんでつきっきりで作業しても、肖像画の完成には数か月を要する。
そのすべての工程に王妃をつきあわせることはもちろんできず、またその必要もない。
セヴランが再び美貌の王妃フロリルダと顔を合わせたのは、ひと月後のことだった。
「下描きができあがりましたので、一度ご確認をと思いまして」
このときも、まず画布を見たのは女官だった。
とはいえ、王妃もみずから画布に近づいた。
セヴランが初めて見る、彼女の積極的な行動だった。
「王妃さま、なかなかよさそうな出来にございますわ。王妃さまのお顔立ちも御髪の流れも、美しく描けております」
女官が下描きを評価する。
彼女は王妃がどう描かれているかに注意しているし、当然王妃も同じだと疑ってもいない。
それはそうだろう。自分が画家の手によってどう描かれているのか、気にするほうが普通だ。
だが、王妃のまなざしは椅子に座る自分の姿ではなく、暗い背景に巧みに隠された絵画にそそがれていることに、セヴランは気づいていた。
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