王妃と画家

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 王妃が静かにふりむいた。 (なるほど、おまえさんはそういう顔でこういうことを面白がるんですな、王妃さま)  自分を見つめる夢見るような菫色のまなざしに、たしかに微笑がのぞいている。  セヴランがさりげなくまぎれこませ、そしてたしかに王妃が見た背景の絵画――それは敵将の首を刎ねた魔性の美女という有名な伝説を描いたものだった。  前回彼女には習作として、さまざまな肖像画の案を見せた。  無難なものに交えて、安らかな死を思わせる横たわった案や、自由な野原へ歩き出す案などを入れた。  そうしたなか、王妃フロリルダが反応を見せたのは、抜き身の宝剣を持った案だった。  その瞬間セヴランは、彼女のなかに氷柱のようにそびえる夫への軽蔑とそれを押しとどめる強固な自制心を直観した。 (たいした女だよ、まったく)  セヴランは惚れ惚れとフロリルダを見やった。  国王が見たがっている王妃の心からの微笑は、いまセヴランの目の前にある。  もちろん彼女は、持ち前の自制心によって実際の顔には出していない。  だがセヴランの画家としての目は、はっきり彼女の笑顔をとらえている。  盛りの薔薇の花をためらいもなくうちおとす、無邪気で無慈悲な幼い子供のような微笑だ。  しかも彼女は、セヴランのこのきわどい企みをしっかり理解している。
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