王妃と画家

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 ――おまえ、こんなことをして恐ろしくはないの?  そんな彼女の声を、セヴランは聞いたように思った。  ――わたくしの心を見て、ただですむと思っているの?  からっぽとはほど遠い。  近づけば危険だとわかっているのに、それでもついふらりと近づいてしまいたくなる、そんな声だ。  セヴランはぶるっと身震いした。 「――いかがでしょう、変更したいところがあれば、なんなりとお申しつけください」  平静を装って尋ねる。  いつものように女官が答える。 「全体的にはよいと思いますが、背景がいささか暗すぎませんか?」  聞いている王妃の口もとがわずかにゆるんだ。  セヴランはふたたび彼女の心の声を聞いた。  ――やめておきなさい。おまえは画家、陛下に言われたものだけを描けばよいのよ。  小国の王女が、大国の王との政略結婚を断れるはずがない。  夫婦となってからも、逆らえるはずもない。  天から美貌を授かったフロリルダは、聡明さと潔さも同時に授かった。  愛せない夫への拒否権がない自分の人生を見通し、このどうにもならない運命に殉じる覚悟を決めていた。 「かしこまりました、ではもっと明るいものに変更いたしましょう」  セヴランは王妃の肖像画に没頭した。
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