王妃と画家

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 寝食を忘れての作業は、単なる仕事の枠を超えていた。        § § §  予定より少し遅れて、王妃の肖像画が完成した。  報を受けた国王ゼリド二世は、愛する王妃をつれて現れた。 「どうだ、早く見せよ」  セヴランはうやうやしく布を取って、肖像画を露わにした。  国王の口がぽかんとだらしなくあいた。 「これは――」  明るい背景と、贅沢な黄金の椅子。  華やかな印象の絵の中央には、美しいまなざしをこちらに向けて、口もとばかりにほんのかすかな微笑をたたえた王妃の姿が描かれている。 (お気に召さないようですな、国王陛下)  セヴランは慎ましく礼をしながら、腹のなかではそうほくそ笑んでいた。  もちろんそうだろう。  肖像画の王妃の笑みは、とってつけたものだ。  恋する者の敏感さで、ゼリド二世は王妃が自分に真の姿を見せるつもりがないことを無意識ながらも察している。  だからこそ、王妃の心からの微笑を見たいと願っている。 (これはこれで、なかなかよく描けたと自画自賛しているんですがね)  さて、依頼主の次の言葉はなんだろう。「描きなおせ」か「出ていけ」か――いずれにしても、宮廷画家の地位はこれで消えた。  自分の愚行に、セヴランは今度は苦笑した。
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