王妃と画家

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(ま、おれにも画家の魂ってやつがちっとばかり残ってまして)  軽い足音が近づいてきて、セヴランは視線をあげた。  肖像画に歩み寄るフロリルダが、視線を合わせてきた。 「よく、描けていますね」  そんな素直で従順で退屈な声とは別に、彼女の心の声が聞こえてくる。  ――おまえは、わたくしを描かなかったのね。  以前は国王の望みどおりに描けと言ったくせに、そんな失望と軽蔑をぶつけてくる。 (やれやれ、女ってやつは)  先ほどとはまた別の苦笑を目礼にまぎらせ、セヴランは肖像画を解説するように片手をあげた。  そして――手のうちに隠し持っていた極小の肖像画を王妃の視線だけにさらす。 (ちゃんと描きましたともさ――誰にも渡せない、おれの最高傑作を)  髪の先のように細かな筆で描いた勇ましく抜き身の剣を持ったフロリルダは、あの日セヴランが心の目で見た無邪気で無慈悲で蠱惑的な微笑を浮かべていた。  目をみはったフロリルダに、セヴランは淡々と、表向きに出した肖像画を解説する。 「王妃さまの人徳を示すため、王妃さまの周囲にさまざまな方々を意味する物を描きました。こちらの杯は貴族、レースの布は女官、本は詩人、リュートは楽士。そしてこちらの王冠は陛下その人にございます」
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