王妃と画家

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「おまえが今度の肖像画家ですか。わたくしは、どうすればよいのですか?」  王妃は間違いなく絶世の美女ではあったが、その声はいたく平凡だった。  その美貌からつい期待してしまうような際立つ個性、たとえば魂をつかまれるような艶めかしさやひれ伏したくなるような気高さはまるで感じられない。  単に素直で従順な――つまりは退屈な――だけの声だった。 (まあ美の神さまもこれだけ外見に手をかけたのなら、中身のほうまで気にする余裕はなかろうよ)  口もとに浮かんだ皮肉な微笑を、セヴランは考えるふりをしてあげた手で隠した。  そもそもセヴランの仕事は、彼女の外見を写し取ることだ。  その点では彼女は何ひとつ問題はなく、素直で従順なのはむしろありがたい。 「さようでございますな、王妃さまは、どのようなお姿で描かれるのがお好みでございましょうか」  できるだけ本人の好みに合う絵にしたほうが、出来映えもよくなりやすい。  もちろん最優先されるのは依頼主たる国王の好みだが、一応、王妃自身の希望も尋ねてみる。  美貌の王妃は、表情ひとつ変えずに即答した。 「わたくしの好みは特にありません。陛下のお望みのように、もしくはおまえのよいと思うように描きなさい」
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