王妃と画家

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 その声はやはり素直で従順だったが、ふとセヴランの耳をそばだてさせる響きがあった。  彼女自身の意思をまるで感じない、それほどからっぽな声だったのだ。  セヴランの胸の底で、いささか趣味の悪い好奇心がうごめいた。 (――ほう。おまえさんは本当になんの好みもないのかい、王妃さま?)  セヴランは人をよく見ることにしている。  人には性質があり、それがおのずと外見にも現れてくる。  それがよいものであれば強調し、悪いものであればできるかぎり薄めるのが、気に入られる肖像画を描く秘訣だった。  と同時に、その人が自覚している性質と自覚していない性質も、注意深く見極める必要がある。  自覚していない性質を描いてしまうと、人によっては不快になるからだ。 (さて、この王妃さまは何を考えているのやら)  下書き用の木炭でざっくりと王妃の美貌を描きながら、セヴランはいつもの作業に取りかかった。  性質と自覚を知るため、話をさせること。  そのための話術や礼儀も、絵画の技術同様に磨いてきている。  だが、 「――はい、王妃さまは」  王妃自身はただ座っているだけで、そばについた女官がすべて代わりに答えてしまう。
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