王妃と画家

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 身につけるものは女官の判断、読書も音楽も刺繍といった日々の慰めも女官の勧め、寝室に運ばせる官職すら女官が指示している、という王妃の生活を聞いただけだった。 「とはいえ女官どの、そうしたなかでも王妃さまのお好みというものがございましょう?」 「いえ、王妃さまはあらゆるものを平等に好まれるのです」  意地悪な好奇心がむくりと頭をもたげ、セヴランは世間話のようなさりげない口調で尋ねた。 「国王陛下とこの国はいかがです? 故郷とはずいぶんと違いましょうが」  当然ながら、国王ゼリド二世と王妃フロリルダとの結婚は政略結婚だ。  国家間の思惑を分かちあう情以上のものは求められてもいない。  ゼリド二世本人にしても、愛だの恋だのといった心弾む感情を引き出す力には欠けている。  どうやら女官はセヴランが女官か王妃の失言を引き出そうとしていると思ったらしく、その手には乗らないとばかりに薄い笑みを浮かべた。 「もちろん王妃さまは、故郷同様、ご家族同様にこの国と国王陛下を愛されております」  王妃の美しくもからっぽな無表情は、やはり睫毛一本そよがない。  セヴランは、視線を女官に移した。  ふんだんに盛り髪をした中年の女官は、若い王妃の指南役でもあるのだろう。
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