王妃と画家

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「あなたはいかがです、女官どの。この国はお気に召しましたか?」  いきなり自分自身に質問された女官は、さすがに少し面食らった顔をした。  だがすぐに落ちつきを取り戻す。 「ええ、さすがは大国と感心することばかりにございます」  女官にしばらく話をさせながら、セヴランはさりげなく王妃の様子をうかがった。  しかし、やはり見事なまでの無反応だった。  女官は語るうちに多少油断してきて、小国の故郷を語るときはしんみりし、華やかな新生活を語るときはうれしげな顔をのぞかせたのに、彼女とそれらの経験を共有しているはずの王妃の心は、ぴくりとも動かないようだった。 (これじゃ人形を描くようなもんだ)  セヴランは、自分の前にこの仕事を命じられたはずの宮廷画家たちの失敗の原因を理解した。  なまじ美化の必要がかけらもないだけに、正統派の画家である彼らはこの王妃を無表情な「人形」としてしか描けなかったのだろう。  そして、それが国王のお気には召さなかった。  ――わが妃の、美しくも愛らしく微笑んだ肖像画を描くのだ。  そんな国王の依頼を思い出しつつ、セヴランはちらりと壁際を見やった。  そこには物々しい衛兵たちがひかえている。
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