王妃と画家

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 いよいよおれにも運が向いてきた――そんな期待でゆるみそうな頬を必死に抑え、セヴランは真摯で実力のある若手画家らしい顔を作った。  セヴランを召し出したのは、国王ゼリド二世。  本人は芸術家の魂をまるで刺激しない横柄な中年男だが、その権力と財力には大いに魅力がある。 「おまえは、こと肖像画にかけては実によい腕を持っているそうだな」  王は、セヴランを値踏みするような目で見た。  セヴランはひるむことなく視線を受けた。  実際、そのとおりだ。  場末の工房になんとかもぐりこんで以来、師匠の手伝いをしつつ、セヴランは彫刻でも装飾画でもなくひたすら肖像画に打ちこんだ。 (成功をおさめるには、権力者に気に入ってもらうのが一番だ)  とある船長がペンダントに入れたがった奥方の小さな肖像画に始まり、町の区長を描き、小金持ちの商人を描き、富農の孫を描き、田舎の騎士を描いた。  描く人物の特徴をとらえつつもほどよく美化させ、緻密に描きこんだ衣装や装飾品や背景でひきたてた。  地道に築いた評判は次第に貴族たちにも届くようになり、奥方を描き、令嬢を描き、跡継ぎを描き、当主も描いた。  そしてついに、国王その人からの注文があった。 (ここで国王陛下に気に入ってもらえれば、宮廷画家になれる!)
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