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序文
本書は、紀元前一世紀頃のユダヤ教サドカイ派の司祭ベン=アリが遺したとされる三つの書物と、彼の名を冠した二つの書物の英語版写本を元に、独自に編纂、翻訳したものです。
本書の「見ることについて」から連なる一節を記した時、ベン=アリは当時の司祭の中でもかなりの高齢でした。また、家長として引き継いだ権力者層との繋がりがいくつかあった為に、キリスト教が力を持つ以前のローマ支配下の時代において、彼は非常に高位の職に就いていました。しかし、ベン=アリの記した書物の多くには見習い司祭たちの様子が描かれており、彼が歳若く未熟な人々の為に多くの時間を割き、教育者として立ち振る舞っていたことが窺い知れます。
ベン=アリの書物について近年ではオカルト的な立場から描かれることが多く、また実際記されている内容から、そのことを否定することはできません。しかし、果たして彼は、後世の人々に怪しげな世界を見せようとして記録を残したのでしょうか?
本書は数ある散文の中で、有名な心の葛藤を描いた告解の詩や儀式の作法についてではなく、彼が巡り歩いた異界の風景と人々との出会い、そして彼自身の心の躍動を中心にまとめています。それは、本書の著者である私がまだ十代の頃、彼の書物を初めて読んだ時に感じたのが「共感」だったからです。
夜中目を瞑った時、布団の外から何かがやってくるのではないかと想像して怖くなったこと。初めて一人で小旅行をした時、見る景色全てに感動して、切り取れない時間を必死に残そうとしたこと。そして、静かな駅で電車を待っているだけで無性に心細くなったこと。誰にも言わずにいた小さな記憶を、私は彼の記述に合わせて思い出しました。
ベン=アリの記した書物には、誰でも経験するような些細で大きな出来事が、日記のように綴られています。あの世、夢、平行世界、アカシアの記録、そして私たちがデルタの丘と呼ぶ異界。かの地を旅した一人の冒険家、司祭ベン=アリの記録として本書をお楽しみください。
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