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「お、全員目を覚ましていたか」
「ああ、こりゃ目を覚まさせる手間が省けたな」
そういうと何がおかしいのか大声で笑った。
入ってきた男は3人いた。一人はおそらくあのときの男だ。顔はよく覚えていないが、声に聞き覚えがあった。
男らはそれぞれ身なりこそきちんとしていたが、どこか薄汚れ、この娼館同様どことなく古臭い印象を与えた。
「あー……お前らな。お前らがこの辺嗅ぎ回るせいで、俺たちはここをつかえなくなっちまったんだよ。なあ?」
真ん中にいた男が本当に迷惑そうな声を出した。その声に、隣にいた男がニヤニヤしながら頷いた。
「俺たちはさ、ちょっと訳ありでな。普通に表を歩けないわけ。だからここは便利だったんだかなあ」
あのときの男がわざとらしく悲哀に満ちた声を出して、周囲の男の笑いを誘った。
「……ここは攫った女たちを閉じ込めておくのに使っていたのか」
ラックが睨みつけながら、男たちの会話を遮った。
「まあな。この前お前らが来たとき、この店の中に入ってくれてりゃ、こんな手間かけなくて済んだのになあ」
あの日男と話したとき、男に店内を見るかと誘われたのだが、断って正解だったという訳だ。
「おかげで俺たちは、仕事がしにくくなっちまった」
真ん中の男が急に真顔になり、ラックの顎を蹴った。
「ぐっ」
「ラック!!」
その光景を残りの男たちが嘲笑って見ている。
「おい、こいつらどうするよ」
「どうするもこうするも……」
あのときの男が4人を目の端で眺めた。
「使えそうなヤツがいれば引き込むか? 騎士団に使えるやつがいると助かる」
「こいつら使えるか? どうやって見極める?」
「その前に見せしめに、何かしてやろうぜ」
3人が楽しそうにレイズンたちを代わる代わる眺めながら会話をするのを、4人は青ざめて聞いていた。
助けを呼びたいが、縛られた状況でそれは無理だった。誰しもが上に報告せず黙って調査していたことを後悔していた。
男たちはみせしめで話がまとまったのか、一人がニヤニヤしながら4人の目の前まで近づいた。
「なあおい。俺たちはコイツの言うとおり、女を攫って他国に売り飛ばして金儲けをしてきたんだ。それでな、売り飛ばす前に俺たちは味見もしてきたんだがなぁ。お前たちのせいでそれができなくなっちまってな」
そこまで言うと堪えきれないのか、クックックッと笑い声を漏らし、それにロイがビクッと反応した。
「まあ、そう怯えるなよ。言いたいことは分かるな? 一人、俺たちの慰み者になってくれればいいだけだ」
「……!?」
4人はその言葉に息を呑んだ。
男たちの相手をさせられるのか? 俺たちが?
信じられないという顔で、4人は男たちを見た。
その茫然自失といった表情を見て、さらに男たちはギャハハと声を出して笑った。
「それそれ! みんないい顔するね〜! そうだよお前らが俺たちの相手をするんだ。仕方がないだろう? お前らが俺たちの邪魔をしたんだから」
「俺たちだって高潔な騎士様にそんなことはしたくないんだがね。……さて、誰にする?」
真ん中の男がニヤニヤとしながら一人ひとりの顔を眺め、最後ラックに目を留めた。
「お前でもいいな。生意気なやつを屈服させるのは楽しい」
男に指名され、ラックは目を見開いた。
ラックのことだ、男たちの慰みものになるくらいなら死んだほうがマシだ、そう考えているのだろう。顔を強張らせて相手を凝視している。
しばらく男と対峙し、ラックはようやく引きつらせた頬を動かした。
「……お、俺の家は子爵家だ」
ラックの絞り出すような掠れた声に、男が片眉を上げて関心を示した。
「それで? どうだって? 貴族だから許せと?」
「……身代金を取れるぞ」
ラックの言葉に、男がぶっと吹き出した。
「はっ何だお前! 命乞いか? 無様だな? 騎士が家に助けを求めるか?」
男がゲラゲラと笑い転げる中、ラックは言葉を続けた。
「……あっちの二人もそうだ。貴族に手を出すと後がひどいぞ」
「……ふーん、それで? あっちのお仲間は? あっちはそうじゃないって?」
チラッと男がレイズンを見た。その目はまるで、餌を前に舌なめずりをする蛇のようだった。
——そしてレイズンは信じられない言葉を、恋人の口から聞いた。
「……あいつは、平民だ。…………それに、男に慣れてる」
「ラック!?」
「おい!?」
ラックの言葉にロイたちが慌てた。
レイズンはラックが発したその言葉が一体何を意味するのか理解できず、阿呆みたいにポカンと口を開けて彼を見た。だがラックは一度もレイズンを見ることはなかった。
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