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5 見せしめ
「なあ、ここ……前来たときこんなだったか」
ロイが戸惑ったような声を出した。
そこはこの間、男が声をかけてきたあの"ライラック夫人の娼館"だった。
あの日からこっそりと4人はこの裏路地を探索していたが、迷路のような道に幾度も迷い、なかなかこの娼館までたどりつけなかったのだ。
そうはいってもそれほど日数は経っていない。そのはずだなのが、あの時よりも建物は古ぼけて見えた。鎖が巻き付けられ開かない扉が、今は営業していないことを物語っている。
あのときは暗くてよく調べなかったが、窓は何年も掃除されていないのか埃やつちぼこりで真っ白になり、店の中など見えない。たった数日でここまでなるだろうか。
まさか建物を間違えたのかと思ったが、あの特徴的な花と女性の絵が描かれた看板を見間違うはずもなかった。
「……おい。まさか欺かれたか」
4人が全員真っ青になった。やはりあのときの男は何か知っていたのだ。
ここならば、誘拐してきた女性らを一時的に監禁するにしても怪しまれない。
これは上に報告すべきだと、レイズンは思った。
「一旦戻ろう。ここは戻って報告すべきだ!」
「あ、ああ」
レイズンの言葉にラックも頷く。もしかすると犯人らが拠点にしていた場所を掴んだかもしれないのだ。これは大手柄かもしれない。
レイズンが踵を返して広い道に戻ろうとした時、背後から鈍い音とともにロイとアレンの小さな悲鳴、そして何かが倒れる音が聞こえた。
(……え?)
嫌な予感がし、立ち止まり振り返ろうとしたとき、ラックの怒声と剣を交える金属音が響いた。
「レイズン!! 走れ!!」
「ラ、ラック……!? ……っぐ」
「レイズ……!!」
ラックの叫びも虚しく、レイズンは頭に衝撃を受け、目の前が真っ暗になった。
◇
カビ臭い。そして冷たく硬い床の上でレイズンは目を覚ました。石の床の上に投げられでもしたのか、頬骨あたりが痛い。
意識がはっきりと覚醒してくると、今度は後頭部にズキズキとした痛みが加わり、そして後ろ手に縛られた手首の痛みまでも感じ始めた。
「い、……いてててて」
体を持ち上げようとしても、うまく持ち上がらない。長くこの体勢でいたのだろう。
(俺はどれくらい気を失っていたのか)
薄っすら目を開けると、ぼんやりと人の姿が見える。
「ラ……ラック?」
「レイズン! 気がついたか!」
夜目がきき、暗い室内が徐々に見え始める。
少し離れた所にラックが縛られた状態で座らされ、その向こう側にロイとアレンらしき人物が、一人は座り、一人が床に転がされていた。
「こ、ここは?」
「あの娼館の中みたいだ」
「捕まったのか俺たち……」
「ああ。そのようだ」
「ロイたちは無事か?」
レイズンが問いかけるとそれぞれ「ああ」「大丈夫だ」という声が聞こえた。
良かったとほっとしたのも束の間。しばらくすると外から誰かが館に入って来た音がした。足音は一人じゃない。いくつもの靴音が響き、それに混じって話し声や笑い声が聞こえた。
(誰かが来る……!)
そう身構えると、足音が止まり古びた扉がギギギと音を立てて開いた。
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