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「ふむ。なるほどな。レイズンが言いたかったことはこれか」
今日の朝、レイズンがハクラシスに話したかったのは、たぶんこのことだ。
妖精奇譚と見せかけた誘拐事件。きっとハクラシスの意見が聞きたかったのだろう。
もしかするとレイズンは、今日1人で犯人探しをしようとしたのかもしれない。
しくじったレイズンの代わりに、この犬が送られてきた……?
ハッハと舌を出し、丸くつぶらな目でハクラシスを見つめるレインを見た。
まさかとは思うが……。とりあえず調べる必要があった。
この犬はどこから来たのか。
本当にレイズンなのか。
「……レイズン」
犬の眉間を指で撫でると、そこは思った以上にフカフカで手触りがよく、撫でられたレインも気持ちがいいのか、目を細めて嬉しそうにペロペロと舌を出した。
「レイズン、隣町へ行くぞ。お前が気にかけていた謎を解きに行く」
そう言ってハクラシスは、隣街へ行くためレインを抱えたまま馬へと急いだ。
馬で1時間もハクラシスにかかればそこまでかからない。
早々に隣町に着くと、早速犬に変えられた子供のいる家を探すことにした。
見知らぬ街で事件のことについて聞き、正直探すのにもっと時間がかかるかと思ったが、それは意外なほど早く見つかった。なぜならハクラシスが犬を抱えていたおかげで、みんなハクラシスも被害者の1人だと思ったからだった。
だから行方不明者の代わりに戻ってきたという犬にも、すぐに会うことができた。
「この犬……いえこの子がその御子息で」
息子が犬になって戻ってきたという商人の家で、その犬と対面した。だがそれはなんの変哲もないどこにもいるような犬で、ハクラシスのレインよりも普通だった。そしてその凡庸な犬が、子供の代わりに立派なソファへ鎮座していた。
「ええ、息子のヨナスです。いなくなってから翌日に犬の姿で戻ってきたんですけど、ふと姿を消すときがあって。今日の朝も目を離した隙にいなくなってしまって……。みんなで探していたらひょっこりと戻って来て、無事で安堵したところだったのですが、こんな紙を咥えていまして」
仕事で忙しい父親に代わり、母親が親切にいろいろと説明してくれ、その犬が咥えてきた紙切れも見せてくれた。
「……これは結構な金額ですな」
そこにはつたない子供の字で『もとにもどってみんなとあそびたい』という言葉と金額——ハクラシスが騎士団で働いていたときの約半年分の給料の額とほぼ同じ額面——が書かれていた。
ハクラシスは、騎士団で自分が高級取りであった自覚はある。だから儲かってはいるだろうがこのような小さな街の商家で、この金額をすぐに工面するのは大変なことだろうと思った。
「そうなんです。だから今主人が必死にお金を工面しているところで……」
「これは他の被害にあったご家庭でも同じ金額だったのですか」
「それが……」
話を聞くと、子供が人間に戻れた家とそうでない家があるらしく、人間に戻れた家はお金を払ったのだろうという推測だった。しかし金額を公表している家はなく、分からないということだ。
そして戻ってきた子供については、犬になっていた間の記憶はなく、いずれもわんぱくざかりだったはずなのに、妙にぼんやりとした性格に変わっていたという。
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