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「待て! レイズン!!」
「ひっ! なんだこのクソ犬!!」
「どこから入りやがった!!」
ハクラシスが飛び込むと、レインは1人の男の腕に噛みつき、腕にぶらんとぶら下がり、もう1人の男がレインをむしり取ろうとしているところだった。
「レイズンを離せ!!」
飛びかかろうとした瞬間、レインは壁に投げ飛ばされ「キャヒ」と鳴いた。
ハクラシスの頭にカッと血が上り、気がついた時には男たちは血だらけで床に転がっていた。
壁に投げつけられたレインも無事だったようで、誇らしげに1人の男を踏みつけていた。
「……しまった。捕縛するだけのつもりが、派手にやってしまった」
とりあえず、意識のある奴を無理やり立たせて、誘拐した子供たちのいる場所に案内させると、案の定子供たちは、キッチン横のひんやりとして狭く暗い貯蔵庫の中にいた。
「おい、子供はこれだけか」
「……全部で今は3人だ」
子供たちは3人。「ヨナスはいるか」と聞くと、1人の子供が震える声で「僕です」と答えた。すでに頭がぼんやりする薬を使われたのではと懸念していたが、はっきりとした受け答えに、無事だと判断したハクラシスは安堵した。母親の喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
しかしこの中には子供しかいない。
「大人は? 誘拐した者の中に大人もいるだろう! どこに隠した!」
「はぁ? 大人なんざ誘拐してねぇよ! 大人なんか誘拐したら、早々に足がついちまうじゃねえか」
「いないだと? まさかすでに殺したとか言うんじゃないだろうな!」
「ひっ! こ、殺すってなんのことだよ! 俺たちは金は奪うけど、殺しゃしねーよ」
「家に帰していない子もいたはずだ! その子らと一緒に殺して埋めたんじゃないだろうな!」
「大人は知らねーって! 親が金払わなかった子は、山に離したよ! 探せばどこかで生きてんじゃねーのか」
「子供を山に? なんて奴らだ……!」
ひとまず男らをその辺にあった布や紐でまとめて縛り上げ、身動きできないようにすると、残った子供らを連れて外に出た。
抱っこ布を回収後、街へ一緒に戻るよう促すと、最初ハクラシスに怯えていた子供らも、愛らしいレインがいたおかげで、次第に元気を取り戻し、胸を張って歩くレインの後をついて街まで戻ることができた。
そうしてハクラシスが子供らを連れて帰ると、街は大騒ぎになった。
ハクラシスはとりあえず街の男たちに自警団を結成するように伝えると、犯人の居場所と帰ってきていない子供らの捜索をするように告げた。
そして面倒なことになる前に、混乱に乗じてレインと馬に乗りこの街を出た。
「さて弱ったな」
てっきり誘拐事件に巻き込まれたと思っていたが、そうではなかったらしい。
もう日が暮れて、すっかり夜だというのに、やはり小屋は真っ暗なままで、レイズンは帰っていなかった。
小屋に戻るとレインを抱っこ布から出し、おかみさんから貰った燻製肉をやると、レインは美味そうに食んでいた。
(これが本当にレイズンであるならば、体はどうなったんだ。もし本当にこのままだったら、俺はどうしたらいい?)
ハクラシスは柔らかな毛に覆われたレインの背を撫でてやりながら、レイズンのことを考えていた。
朝ちゃんと話を聞いてやっていれば、こんなことにはならなかったのだ。出て行った時、すぐにでも追いかけていれば……。呑気にしていた自分を恨み、後悔ばかりが頭に浮かぶ。
「——お前を元に戻してやらないとな」
ハクラシスは、肉の余韻を楽しむにように自身の口の周りをぺろぺろと舐めるレインを抱っこ布に入れると、肩に提げた。
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