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「ベッドが、ほら二人で寝るには狭いだろう。そろそろ大きなサイズにしなければと思って、街の家具職人に相談したんだ。そうしたら、今の部屋の大きさだと部屋がベッドで埋まるから、少し広くしたほうがいいと言われてな。それでプランを練っていた」
「ベッドを大きいものに変えるんですか!?」
レイズンが驚きの声を上げて、ガバッと起き上がった。
「ああ。今のベッドよりふた回りほど大きくなる」
「やったーーーー!!」
歓喜の声を上げて、レイズンはハクラシスに抱きついた。
「これで、どんなに寝相が悪くても落ちなくて済むぞ」
「でも今のベッドはどうするんです!? 俺のとお揃いのやつ」
今あるハクラシスのベッドは、レイズンがここに来たときに、部屋を増築するついでにレイズンのものと一緒に作ってもらったものだ。レイズンは、この2人揃いのベッドをことのほか気に入っていた。
新しく大きなベッドがくるのは嬉しいが、思い出深いベッドがなくなるのはやっぱり寂しい。
「まだ使えるし、廃棄は勿体ないからな。このベッドの使える部分を再利用して、作り替えてもらう予定だ。もちろんデザインもそのままで。改装が終わるまでは、しばらくお前の部屋で寝かることになるが……」
「全然問題ないですよ! それにベッドが大きくなるってことは、もうずっと毎日一緒に寝てもいいってことですよね! 俺、すっごい嬉しいです!」
「わ! こら、レイズン」
「へへ!」
まるでレインがそうしたように、レイズンはハクラシスの顔中にキスの雨を降らせると、ハクラシスも嫌がる素振りをしながらも、最後は2人でもつれあうようにベッドに倒れ込んだ。
翌日、そしてその後何度か、ハクラシスとレイズンはあの妖精の庭のあった場所へ足を運んだ。しかし結局それらしい場所の発見には至らず、レインの姿も見ることはなかった。
——だが時折、ハクラシスはあの薄茶の柔らかな毛の感触が恋しくなる。そんなときは、何気ない顔でレイズンの髪を撫でては、犬にしては変な鳴き声を持つあの愛らしい姿を密かに懐かしんだ。
そしてあの小さな街で起こった、子供が犬になって戻ってくる事件解決の噂は、この街にも広がった。事件解決に導いた男の素性は結局わからずじまいとのことだったが、その名も知れぬ子犬を連れた英雄の話を聞くたび、酒屋の店主だけは「まさかなぁ」という顔でハクラシスを見るのだった。
番外編 犬になったレイズン(完)
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