179人が本棚に入れています
本棚に追加
「はあ? 小隊長のことが知りたいって?」
「俺入隊してもう2年くらい経つけどさ、小隊長のことあんまり知らないんだよな」
レイズンはあれから小隊長のことがなんとなく気になり、昼休憩で食堂に集まった面々に聞いてみた。隣にいるラックは大して興味なさそうだが、それでも「そういえば自分も知らないな」とレイズンの言葉に相槌を打った。
「あー……、そっか。小隊長が俺たちの小隊に配属されたのは、お前らが入隊する前か」
後ろを通りがかった同僚のロイが、目一杯食器を乗せたトレーをレイズンの前の席に置きながら、話に割って入った。
彼はレイズンたちよりも少し前に入隊した、一応先輩だ。大雑把で教え方も雑だったが、面倒見がいいので後輩には頼りにされている。
「小隊長は、以前はこんな下っ端が集まる小隊じゃなくてさ、もっと重要な任務をする上位部隊に所属していて、バリバリ他国に攻め行ったりしていたらしいぞ」
「ああ確かに、小隊長スッゲー強いもんな」
ロイの言葉に、ラックも含め周囲の隊員らが納得と頷いた。
確かに小隊長の強さは半端ない。それはレイズンも実体験として知っていた。
——それは以前、街のはずれに魔獣の群れが出るということで、レイズンたちの小隊も駆り出されたときのことだ。
大きな戦やすぐにでは仕留められないようなデカい魔獣が出現したときには、それに適した上位部隊が出動するのだが、このような小さな魔獣の群れ程度は雑務として、いくつかの下位小隊が引き受ける。
まあ普段からさまざまな条件下での訓練や演習を重ねてきたのだから、低俗な魔獣相手など正直余裕だという空気が流れていた。
小隊長の「油断するな! 気を引き締めろ!」という言葉も彼らには効果なく、結局油断は大失態に発展し、危うく死人を出しかけたのだが……。それを防いだのが後方にいた小隊長だった。
レイズンたちも最初こそ優勢だったのだ。しかし途中から立場は逆転し、どんどん劣勢に追い込まれ、最後大型魔獣が現れたところで逃げ場を失った。
前方には今にも襲いかかりそうな攻撃姿勢の大型魔獣。そして周囲には、レイズンたちの隙をついて食い殺そうと待ち構える小型魔獣。パートナー訓練の通り一人が守り、一人が攻撃と何とか払い退けてはきたが、一人二人倒れていくうちにそのフォーメーションも崩れ、気が付いたらもうのっぴきならない状況に追い込まれていたのだ。
払っても払っても湧いてくる魔獣に全員が疲弊し、ラック・レイズンのコンビもラックが利き手を負傷。レイズンもラックを庇いながらの戦いに限界がきていた。
あわや絶体絶命と絶望しかけたとき、後方を守っていた小隊長が持っていた戦斧を大型魔獣に投げつけ、それが見事に急所である首に直撃したのだ。あたりに轟くほどの悲鳴をあげ、大型魔獣がのたうち暴れるかと思いきや、瞬時に小隊長が隊員の脇を走ってすり抜け長剣で一刀両断したのだ。
仕留めた後も「油断するな!」と一喝し、そのまま一人で小型魔獣も斬り払い、退けた。
それをみんな唖然として見ていた。強いとは思っていたが、まさかここまで強かったとは。
これだけの人数がかかっても苦戦していたものを、小隊長はたった一人で仕留めたのだ。
おかげで負傷者は出たものの、全員なんとか生還できた。
小型魔獣は大型魔獣に引き寄せられていただけで、仕留めたあとはもう散り散りとなり戻って来なかったのも幸いした。
……ただ、死人が出なかったとはいえ、部隊が全滅する危険もあったのだ。
外部からはこの程度の魔獣の相手もできないのかと揶揄され、小隊長は責任を取り一時的に減俸処分を受けていた。
(あれは圧巻というか……凄かったよな。あれで初めて小隊長の怖さが本物だった実感したんだよな。そりゃ訓練も厳しくなるよな。あれくらい仕留められないから、ランクも上がらないんだろうな俺たち)
最初のコメントを投稿しよう!