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3 ラックの怒り
それはラックにとってほんの出来心だった。
本当に、少し。そう、恋人が自分に隠し事をしているような気がして、そのモヤモヤとした気持ちをなんとかしたかった。
だからちょっとだけ、ラックはレイズンの引き出しを漁ってしまったのだ。
引き出しの奥から出てきたのは、真四角の薄い包み。贈り物としてきれいに包装された、未開封の包み——
誰に贈るものか分からないその包みを、思わずぐしゃぐしゃに握りつぶしそうになるのを、ラックは堪えた。
——最近、レイズンの様子がおかしい。
ラックはここのところレイズンの自分に対する態度が変わったような気がして、なんとなく落ち着かない気持ちで過ごしていた。
よそよそしいとか、冷たくなったとかそういうことではない。恋人であるラックだけが感じる、ほんの少しの違和感。
それはあの昼に中出しエッチをした日。午後の演習に遅刻しそうになり、彼を置いていったあの日からだった。
(俺のせいか? 謝ったぞ俺は)
あの日はちゃんと謝ったし、お願いしたら夜のエッチだって受け入れてくれた。ああいうことは普段からよくあることだったし、……まあ遅刻が見つかって怒られはしたけど、それでその話は終わりと思っていた。
——だが、あの日からなのだ。レイズンとの距離を感じ始めたのは。
表面上はいつもと変わらない。エッチだって求めれば応じてくれるし、嫌がる素振りもない。傍目から見ればいつもどおり、仲の良い二人に見えるだろう。しかし、どこかレイズンが距離を置こうとしている。二人の間に溝が生まれた、そんなふうに感じるのだ。
(レイズンは俺に嫌気がさしている? ははっそんなまさかな。それだったらエッチも拒否するだろ。それとも何か? レイズンのやつ倦怠期突入か?)
そう含み笑いし、違和感について気楽に考えようとした。
……だがもしかするとそうではないかもしれない。
このモヤモヤとした疑心暗鬼をどうにかしたかった。だめだと分かっていてもラックはつい、目についたレイズンの私物が入った棚の引き出しに手をかけた。
——そしてラックは見つけてしまった。
見覚えのないきれいな包み紙の贈り物。大事そうにレイズンが引き出しの中に入れていたものを。
いつからそこにあったのかは分からない。未開封のそれは貰ってから日数が経っているのか、きれいに包装された包みの表面にはシワが寄り、よれた跡がついていた。
(誰かに貰ったのか? 気に留める相手ではなかったからそのまま引き出しに入れて、貰ったことも忘れていたとか。だがレイズンの性格上、物を貰ったなら俺に言いそうだが。しかもこんなにきれいに包装されたものだ。誰からどういう経緯で貰ったのか、あいつなら嬉しげに俺に報告するだろう。……やましいことさえなければ、だが。それとも誰かに贈るためのものだったのか?)
この薄い包みはおそらく手巾か、レースの何かといったところだろう。中身を見れば相手のイニシャルでも縫い取りされているかもしれない。しかしさすがのラックも未開封のものを勝手に開けるのは躊躇した。
(俺に……とは考えられん。手巾などまともに使った試しがないからな)
使うとしたらレイズンのほうだ。レイズンだって使わないとわかっているのに、ラックにあげようとは思わないだろう。
(バカな。こんな小さいことを気にしてどうする)
これは些細なことだと、これが浮気の証拠になどならんだろと自分自身に言い聞かせようとしたが、小さな疑念はラックの心の中で大きく膨らむ一方だ。
気楽な付き合いを自分で望んでおきながら、ラックはレイズンの隠し事が許せなかった。これまで従順だったからこそ、尚更なのだろう。
(昨日だってあいつを抱いた。いつも通り散々ほぐして突っ込んでやったら、俺が好きだと、気持ちがいいと、ひいひい泣いてよがっていたじゃないか)
これは誰からだと、この包みをレイズンの前に突き出してやろうかとそう考えたが、勝手に引き出しを漁ったと非難されるのが目に見えていた。
ラックはそれを元の場所に戻すと、音が響くほど乱暴に引き出しを閉めた。
(レイズン、お前は俺のパートナーなんだぞ。それを……!)
ラックは腹立ち紛れに、贈り物の入った棚を思いっきり蹴りつけた。棚は蹴られた勢いで床を滑り、途中ガゴンッという大きな音を立て壁にぶつかると、少し斜めになって止まった。
その騒音に、廊下で誰かが「うるせぇぞ!!」と怒鳴ったが、ラックはそれには答えず小さくクソッとつばを吐いた。そして殴りつけるように、ベッドに倒れ込んだ。
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