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「ベッド行けよ……。体いためるぞ」
「いーよ。いまはこうしてたい気分だから」
「…………」
……本当、どうにかしてほしい。
「――ねぇ、綾都」
「あぁ?」
再度名前を呼ばれて、今度は何かと声に凄みを利かせる。
だけど、次に聞こえた言葉は。
あまりに予想外のものだった。
「――この関係、今日で最後にしようか」
「………………え?」
静かに紡がれたその一言に、俺の頭の中が真っ白になる。
何を言われたのか理解できなくて、目を見開いたまま静流を見つめた。
「終わるのはセフレの関係の話ね」
安心させるためなのか、色素の薄い茶色の瞳がふっと柔らかく細められ、口元が笑みを作る。
「たぶん終わらせないと、俺も綾都も……もう、前に進めないんだなってわかった」
「……い、いや……何言ってんだよ……? 前に進むってなんだよ……俺は、別に……」
別に、なんだ?
いいじゃないか。ただのセフレだろ。
終わるのはこの関係だけで、友人としては普通に続いていくじゃないか。
――そう、わかっているのに。
心の中が焦燥感で埋め尽くされていく。
「ごめんね、綾都。……今日はもう、帰る」
「はぁ?! ちょっ、静流!!」
俺の肩に預けていた頭を離して立ち上がる静流の腕を慌てて掴んで押し留める。
何故、止めるのかも自分でもわからなかった。
とにかく、いま、このまま静流を離してしまったら絶対に後悔する、と直感的に感じたのだ。
だけど。
「……ごめん。ほんともう、綾都とのこの関係、俺はむりだから……」
「…………」
掴んでいた手の力が緩んだ隙に、静流は逃げるように部屋から出ていった。
俺は、唖然としたままその場から一歩も動けず。
しばらくして玄関の開く音が耳に届いてそれが閉じられても、俺は静流のあとを追うことが出来なかった。
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