再会

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「久しぶり」 黒縁メガネをかけているので印象がやや穏やかに見えるが、その顔は5年前と変わらない。ようやく会えた嬉しさと、安堵感で頬が緩む。ちょっと大人っぽく、優雅に微笑もうなんて計画立てていたのに、虚しくも顔がとろけてしまった。 そんな私の様子を見て、彼はくすりと笑う。指先をカフェの玄関へと向けると、足早に大青さんはガラスの前から去っていった。 「早いですね。しずくは、30分前行動派ですか?」 彼は、空いている椅子の背に丁寧にコートを掛けると、ストンと席へ腰を下ろした。ガラス越しでは気づかなかったが、大青さんの額に汗が光っている。 「大青さん、もしかして、走ってきたんですか?」 「ああ、これですか?」 と彼は、自分のおでこを撫でる。ハンカチをショルダーバックから取り出して手渡した。汗を拭いながら彼は苦笑を浮かべる。 「ちょっとトラブりまして……。  地下鉄の出口は、いつも方向感覚が狂うんです」 そんな彼を見て、つい頬が緩んでしまう。
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