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「今は、宴会部なんです。ウエディングプランナーなんてかっこいい肩書が、ありますけど、まだ全然覚えること山積みで……」
「へえ。ウエディングプランナーですか。やりがいがあるポジションですね」
人生の最も輝かしい瞬間に立ち会うことができるウエディングプランナーは人気が高いポジションだ。婚礼を含めた宴会収入はホテル全体の飲食収入の大半を占める。披露宴をプランニングするウエディングプランナーは、ホテルの売上面から見ても、大事なセクションと言える。そんな大事な職務につけていることは誇りに思う。だが、私が求めているのは、ここではない。
「本当は、フロントクラークがやりたいんです。でも、私やっぱり向いてないみたいで」
「顔的には、華があるし、フロント向きだとは思いますが……」と、大青さんは言葉を切る。まじまじと顔を見つめられて、恥ずかしくて、顔を背けてしまう。すると彼は、声を上げて笑いだした。
「心の声が、顔にすぐ出てしまうのは、どうかと思いますね。どのお客様も紳士ってわけじゃないから。どんな時でも鉄壁の笑顔を貼り付けられないとフロントは務まらない」
それは、大青さんに見つめられたからだ。彼に見つめられると、本心をうまく隠せなくなる。
でも、心当たりはいくつかあるから、「そうですね。やっぱり無理ですね」なんて言って頷いた。
「そう落ち込まないで。正直さはウエディングプランナーとして最大の長所ですから」
「それじゃ、適材適所に放り込まれたんでしょうか?」
「ええ、きっとしずくの良いところを活かせると思って与えられた仕事だと僕は思います。
まあ、偉そうに語っていますが、僕も穴だらけで。人に迷惑をかけることもしょっちゅうですし、お客様にセクハラされて泣きたくなることもあるんです」
——セクハラ?
思いがけないことを彼の口から飛び出て、つい身を乗り出して話に噛み付いてしまう。
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