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「それはそうと、よこやんの本当の進路って?」
「ラッキースケベマスター」
「それはもういいから」
ズバッと袈裟がけに斬られるような拒否っぷり。この切れ味がクセになる。フフフ、さすが福ちゃんだぜ。
「うーん。特に考えてない。にゃんたと一緒でエブリスタ学園の大学部でいいかなぁ」
「学部は?」
「……分かんない。テキトーに人文? とかいう奴でいっかなー。今のところ特に将来の目標なんてものもないし。だからしっかり持ってる福ちゃんや空ッチが羨ましいよ」
夢があるってカッコいい。なりたいものがあるって尊敬する。だって私にはそんなものないもん。十六でもう決断してて、その方向に進めるって、凄いと思う。
「福ちゃんはさ、なんで楽器の修理師になろうと思ったの?」
「彼がピアノの調律師だからってのもあるけど……普通に面白いしね。繊細さを要求されるし、のわりには大胆に捻じ曲げたりするし、アタシに合ってると思うから」
「へえー」
説明されて、確かに福ちゃんに合ってそうって私も感じた。ずっと吹奏楽部だったし、それも含めて福ちゃんの運命みたいなものがあったのかもしれない。私はお弁当を仕舞いながら、自分のなりたい将来について考えてみたけど、やっぱり特に何も浮かばなかった。
「でも『結婚』って選択はないなぁ。仮に私が福ちゃんみたいな彼ピがいてもナイっていうか……。
ねえねえ。福ちゃんはサ、なんで即結婚って考えなかったの? そういう選択肢も福ちゃんなら出来るだろうに」
私の質問に福ちゃんはちょっと考え込んでいた。ややあって重そうに口を開く。色々考えているのが、雰囲気から伝わってきた。
「佐伯さんは……アタシの彼氏は、その道では知らない人が居ないくらい有名な人で、家柄もお金も申し分ない人なの。でもアタシ……女の価値は男の地位で決まる、みたいなのが苦手で。最近多いじゃない? そういうシンデレラストーリーが。だからこそ努力して、自分の力で自分の身を立てることが出来るってちゃんと証明したいの」
誰に、って訳じゃなく、自分に。
福ちゃんはそう言った。その笑顔がすごく綺麗で、めちゃくちゃ可愛くて、私は「佐伯さんって見る目あるなー」って超思った。
「さっすが福ちゃん! あーでも、頑張りすぎて無理しないでね」
「それ佐伯さんにもよく言われる。大丈夫よ。いざという時は彼が止めてくれるから」
それなら安心だ。さっすが私の自慢の親友、ってひっそり胸を張ってた時、昼休み終了の無情なチャイムが鳴った。
将来の夢。
これからの進路。
なりたいもの、かぁ。
目先の目標だけで言うならば「空ッチとお付き合いしたい」って思うけど、それでもやっぱ一度くらいは「空ッチの股間をタッチしておきたい!」とか願っちゃってるから、やっぱり目指すべきはラッキースケベマスターだな、と改めて思った。
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