めざせ◯◯マスター

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「にゃんたァ!」 「うっせえぇ! 『かんたァ!』みたいに呼ぶなって何遍(なんべん)言ったら分かるっ⁈」 「にゃんたン家がお化け屋敷みたいなのがいけない」 「ほっとけ!」  生徒会室のドア開けて速攻人ん()ディスるなっつの。相変わらず猪突猛進な奴め。  「にゃんた! 覚悟!」  とかなんとか思ってたら、まさに猪よろしく俺に向かって突進してきやがった。勢いがあるわ、顔は必死だわで、俺はマタドールよろしくヒラリとかわす。  意味が分からん! 「避けんなし!」 「避けるわ! なんだお前、何がしたいんだ⁈」 「おとなしく私の経験値となれ!」 「何の話だ⁉︎」  再び俺に手を伸ばして向かってくる横山。再び避ける俺。  なにだこれ。なんなんだ。どういうことだ。  追いかけっこと言うにはあまりに必死で決死な横山の様子に疑問符しか浮かばない。  しかもどうにも俺の下半身ばっか狙ってるような低い構え……柔道の取っ組み合いにも似た体勢は、ともすれば江川に誤解されかねない。  ……勘弁してくれ。っていうかお前らさっさとくっ付けよ! 「ちょっと待って、よこやん。ここ、生徒会室だし、今日はたまたま他のメンバーはいないけど、何しに来たのか言ってくれる?」  そうだそうだ。経験上なんとなく理由は察してるつもりだけど、とにかく俺を巻き込むな!  だが横山は俯き、少し照れがちにはにかみながら言った。 「でも私……どうしてもにゃんたがよくって……」  こいつ! 誤解を招く言い方を!  ゲッ! 俺を睨むな、江川! 今の絶対「そういう」意味じゃないから! どうせ練習台とか、手頃なのが近くにいたからとか、そういう類の奴だっての! 「南田。言ってることが昼と違うっぽいけど、どういうことかな?」 「違う! 俺は……無実だ‼︎」  ニコニコ笑いながら見えないブリザードが生徒会室に吹き荒れる。そんなになるなら、お前こそさっさと告白しろよ!  似た者同士か‼︎  待っててもラッキースケベは向こうからやって……来ない訳ないって言い切れないのに、なんなんだこの状況はっ‼︎ 「にゃんた」 「南田」  前門の虎ならぬ横山。  後門の狼ならぬ江川。  いやまだ虎と狼のがまだマシだ。  っていうかなんで俺が追い詰められてんの?  俺なんもしてないのに。  俺が他の女子よりちょっと横山と仲良いってだけでコレとか、江川もちょっとアレだよな。  ジリジリと二人ににじり寄られ、俺はまさに背水の陣となった。  つまり背後が壁。  避けたら、横山のこの勢いじゃ十中八九壁に激突する。  そうなれば江川はまたしてもキレる。  とはいえ受け止めても江川はキレる。 「にゃんた。もう逃げられないぞーー!」  横山が最高のスピードで突進してきた。  江川の笑顔に俺は覚悟を決める。  ここはもう……こうするしかない‼︎  俺は弾丸となった横山の軌道を江川の方は逸らせるように走り出しながら、その場から脱兎のごとく駆け出した。 「俺、他に好きな子いるからあぁ‼︎」  別に誰も訊いちゃいない、そんな捨て台詞を残しながら──。
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