見守りたかっただけなのに

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 火葬を終えて、骨になった。骨壺の前にずらりと並んだ高価なお酒。死んだら飲めないわけじゃない。むしろ逆。飲んでも飲んでも減らないし、飲んでも飲んでも酔わないし、誰に迷惑かけることもなく常に楽しい。まさしく(しゅ)()に溺れる感じで、ずっと気分よく飲める。そして線香を上げに来てくれる人は、みんな美味しいお酒を持ってきてくれる。四十九日で極楽浄土へ行くと言うけれど、私はブローカーの勧誘を断り、この世に残ることに決めた。いつまでもお酒を味わい続けたいというのもあるけれど、やはり娘や孫、その先の子孫たちが健康で幸せにいられるよう、一族の守護霊になりたいって思った。優しく穏やかに、子どもたちを包む守護霊。そしていつか大物を誕生させたい。それが私の願いだった。  でも、つい三日前、あまりにも予想外な、夢も希望も打ち砕く出来事が起きた──。  あまり悪く言いたくはないけど、娘の夫である(かつ)()は超現実主義の人で、特に私と親しくしていたわけでもなかったから、私の遺品に何の思い入れもなかった。 「金になるものは売ってしまえ」  そう言って、スマホでどこかに電話をかけ始めた。実体がないと通話相手も見えるし声も聞こえるもの。それは、町の便利屋さんだった。勝央は「遺品整理を頼みたい」と言い、「金目のものは査定もお願いしたい」と言った。  これだけだったら、責められたものじゃなかった。高価なものは持っていなかったけど、宝飾品その他を合わせれば、二百万ぐらいにはなったと思うから。想い出の品があっても、死んでしまえば愛着も薄れる。娘の生活の足しになるなら、どうぞ売ってくださいぐらいの気持ちだった。  だけど勝央は続けて、 「家の除霊もお願いしたい。どうせお()()さんは悪さなんかしないし、略式の除霊で構わない。そこら辺で売ってる浄化グッズで事足りるだろう」  と言った。  便利屋さんは「プロに頼んだ方がいいと思いますが」と助言したけれども、勝央は「それじゃあ金がかかり過ぎる。ああいうのは法外な値段だろう」としてその助言を跳ね除けた。
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