見守りたかっただけなのに

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 そして二日前、便利屋さんが家にやって来た。私の遺品を念入りに調べ、それぞれを査定して売却する商談のようなものをした。どうやら売却益の二割を報酬とするらしい。勝央はちゃっかりしていて、その報酬を依頼料の一部として値引きを求めた。  これはかなりの攻防戦になった。すでに仕事に着手し、あらかた事を終えた便利屋さんは折れない。でも、勝央も意見を曲げない。結局一時間ぐらい話し合い、半ば便利屋さんが譲る形で落着となった。  不満げな便利屋さんは、いかにも不服そうに巾着を取り出した。 「じゃあ、略式で除霊しちゃいますね。見様見真似ですから、効果のほどは知りませんよ」  白い葉っぱが、銀色の灰皿に置かれた。便利屋さんはその葉っぱに火をつける。ボウッと瞬間燃え、後から線香みたいな香りと煙が家の中に広がった。 「これはホワイトセージです。清らかな気持ちでいてくださいね。下手すると低級霊を呼び寄せちゃいますから」  そう言った便利屋さんの心の中では、『この依頼主が苦しむように低級霊が来てしまえ』と繰り返されていた。まったく清らかじゃない心。むしろそれは反感だった。 「続いて(おん)()を鳴らします。この音は天国の扉が開かれる音だそうです。お()()様が無事に天国に行けるように祈りを込めていてくださいね」  便利屋さんは言って、音叉という道具を水晶にぶつけた。チーンともキーンとも言えない澄んだ美しい音が響き渡った。でも、私には何だか、天国の扉よりもむしろ魔界の扉が開かれたような感覚だった。  ホワイトセージの煙が尽きるまで、便利屋さんは家のあちこちで音叉を鳴らした。そのたびに私の気持ちがどんどん(ざわ)ついてきて、とても良くないモノに支配されていく感じがした。  勝央はそのあいだ、仕事の電話をしていた。部下を叱責していて、こいつはかなり悪い上司だ、と思った。除霊は心を込めてやるものではないのか。この場にいる二人はどちらも私のことを考えていない。非常に事務的で、非常に()()(ごと)な「作業」でしかない。
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